近年、歯をできるだけ長持ちさせることを目的とした治療の種類が増えており、歯の強度を保つ役割を担う歯髄(しずい)を保存する治療のほか、失われた歯髄を再生させる治療も登場しています。
また、歯自体が失われてしまったときにできる治療の幅も広がっています。
今回は、いつまでも日常生活を楽しむために、今ある歯を長持ちさせる治療、失われた歯を取り戻す治療についてご紹介します。

歯髄再生治療とは

歯髄再生治療とは、虫歯や外傷などで失われた歯髄(俗に言う神経)を再生させる最先端医療です。
歯髄には、歯に水分や栄養を送る働きや、傷ついた象牙質を修復して再形成するなどの働きがありますが、歯髄が失われると、これらの働きが失われるため、歯が弱くなってしまいます。

このような重要な役割を担う歯髄を、私たちの歯の中に存在する歯髄幹細胞を用いて再生させる治療が、歯髄再生治療です。

乳歯や親知らず、矯正治療で抜く歯など、抜歯した歯から生きた歯髄組織を採取し、その中から歯髄幹細胞を分取・培養した後に、治療によって歯髄を取ってしまった歯の根管内に移植します。このとき、細胞を移植する根管は、菌が検出されなくなるまで徹底的に洗浄が行われます。

歯髄は、早い方で細胞移植から1ヶ月ほど、遅い方でも3ヶ月ほどで再生してくる傾向があります。歯髄が再生した歯は、歯への水分・栄養供給が再開され、象牙質再形成能力が回復するほか、歯の異常を痛みとして感じられるようになるため、歯の寿命が延びることが期待されます。

楽しくわかる歯髄と歯髄再生治療

再生治療のために歯髄幹細胞を保管する方法

前述した歯髄幹細胞は、私たちの健康な歯の中に存在し、神経や血管組織を再生させる能力が高い特殊な細胞です。
歯髄再生治療では、この歯髄幹細胞の能力を活用した再生医療ですが、この治療を行うときに、都合よく細胞採取が可能な歯(抜歯する歯)があるとは限りません。また、歯髄幹細胞は年齢が若いほど増殖能力や組織再生能力が高い傾向があり、若い時に抜歯する歯から採取し、実際に使う時まで凍結保管しておくことが理想となります。
これを叶えるためのサービスが、アエラスバイオ歯髄幹細胞バンクです。
-150度以下の液体窒素環境で細胞を凍結保管し、半永久的に保存することが可能です。

歯髄幹細胞の保管の流れ

以下に、アエラスバイオ歯髄幹細胞で細胞を保管するまでの流れをお示しします。

STEP1 抜歯
アエラスバイオの提携歯科医院で抜歯をしてすぐに、抜去歯が歯髄細胞培養センターに輸送されます。

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STEP2 歯髄幹細胞を採取・培養
アエラスバイオの施設内で、輸送された歯の中から歯髄幹細胞を取り出し、培養により100万個以上に増やします。

STEP3 歯髄幹細胞の品質検査
培養をした歯髄幹細胞が細菌感染をしていないかなど、品質がきちんと基準をクリアしていることを確認します。

STEP4 冷凍保管・管理
十分に培養した歯髄幹細胞は、−150°Cの環境下で凍結保管します。
歯髄幹細胞の能力や状態を維持したまま凍結保管が可能です。

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歯髄を失わないための虫歯予防

歯髄を失う原因で多いのが、虫歯菌の感染が歯髄まで広がることです。
虫歯は、自覚症状の少ない疾患でもあるため、気づかないうちに進行していることが多く、気づいた時には歯髄を除去しなければならないほど悪化している場合もあります。
そのような状態にならないために、下記の虫歯予防をしてお口の健康を守りましょう。

ポイント1 正しい歯磨きをする

毎日歯磨きをしているのに、虫歯になった経験をされた方も多いのではないでしょうか。
歯並びの悪い部分や歯ブラシの当たりにくい箇所は、汚れが残ってしまいがちです。
大きいストロークで磨くと、汚れが残りやすいため、歯1〜2本分を目安に細かく歯ブラシを動かしましょう。
また、歯と歯の間は汚れが落ちにくいため、デンタルフロスを通して細かい部分の汚れを落としましょう。

ポイント2 糖分を控える

虫歯菌は糖分を栄養として、酸を発生して歯を溶かします。
唾液には、歯の表面のエナメル質を修復する再石灰化を行う働きがあるため、軽度な虫歯であればある程度修復されることも期待できますが、頻繁に糖分を摂取すると再石灰化が追い付かず、虫歯が深くなってしまいます。
そのため、糖分を多く含む飲食物は時間を決めて摂取するようにし、一回の飲食量を控えていただくと、虫歯を予防することができます。

ポイント3 定期的に検診を受ける

虫歯は自覚症状が少ないため、初期の段階で自分で気づくことは難しいケースが多いです。
そのため、定期的に検診を受けてお口の中を確認しましょう。
自覚症状が出る前の初期虫歯の早期発見・早期治療も可能となります。

歯髄保存治療

虫歯は細菌感染が原因となって広がる特徴があるため、悪化を防ぐためには、感染部分を削って細菌を除去する必要があります。虫歯が歯髄まで達してしまうと、多くの場合抜髄治療により感染した歯髄を除去する必要がありますが、上述したように、歯髄は歯を長く健全に保つための様々な役割を担っているため、歯髄を取り除くと歯が弱くなってしまいます。
歯髄保存治療は、歯髄をすべて取り除くのではなく、感染した部分だけ取り除く治療です。
MTAセメントを選択することで、従来の治療より高い確率で神経を残すことができます。

歯周組織再生治療とは

歯周組織再生治療は、歯周病や加齢によって減少した顎の骨や歯ぐきの再生を促す治療です。
顎の骨の再生を促す方法は、エムドゲイン・リグロスなどの薬剤を使った方法やGBR法、骨移植があります。

歯ぐきを再生させる方法としては、結合組織移植や遊離歯肉移植があります。
患者さまのお口の状態を確認して、どの治療法が適用になるか診断します。

歯周組織再生治療の前にできること

歯周組織再生治療の前にできる処置についてご紹介します。

・スケーリング

専用の機械や器具を使って、歯の表面に付着している歯垢や歯石を取り除く方法です。
歯石は歯垢が固くなった状態で、歯ブラシで落とすことができません。
表面がザラザラしており、着色や歯垢がつきやすいため、お口の環境が悪化します。
そのため、定期的にスケーリングをして細かい汚れを落としましょう。

・ルートプレーニング

ルートプレーニングは、歯周ポケットの中の感染したセメント質を取り除き、歯の根をきれいにする処置です。
汚染したセメント質を除去することで、再び歯肉が再付着しやすいような状態にします。

この2つの方法で改善しない場合には、歯周組織再生治療が検討されます。

インプラント治療とは

インプラントは、歯を失った時の治療の選択肢の1つです。
歯を失った時の治療は、ほかにブリッジや入れ歯がありますが、天然歯とインプラントが一番構造が似ているため、天然歯に近い咬合力(噛む力)を手に入れられます。
また、インプラント体が根の役目をして、食事のたびに噛む刺激が伝わるため、顎の骨が痩せにくいという主張もあります。

インプラントは、顎の骨にインプラント体を埋入して、その上に土台となるアバットメントを立てて、人工歯の被せ物をする治療です。
そのため、インプラント体を支えるためには、顎の骨が十分にあることが重要です。
加齢や歯周病で減少してしまった顎の骨は自然に元に戻ることはないため、顎の骨が足りない場合には、骨造成の手術が検討されます。

顎の骨が足りない場合に行う骨再生治療

歯周病が悪化すると、歯ぐきの炎症だけでなく顎の骨にも炎症が進行します。
そうすると、顎の骨を少しずつ溶かしてしまい、歯を支える部分が少なくなってしまいます。
歯周病で歯がグラグラする原因は、顎の骨が減少しているためです。
最悪の場合、歯が抜け落ちてしまうこともあります。
そのままの状態では、インプラント治療が難しいため、顎の骨が足りない場合には骨再生治療が検討されます。

GBR法

GBR法はインプラントを埋入するために、顎の骨の高さや厚みが少ない時に行う骨再生の治療です。
顎の骨が減少している部分にインプラントを埋入すると、安定しないだけでなく、見た目も良くありません。
そのため、骨を造成する治療を行います。

顎の骨が減少してしまった部分は、骨を作る「骨芽細胞」より骨にならない「線維芽細胞」の方が増えやすくなります。
そのため、骨形成の妨げになる繊維芽細胞が入り込まないように、人工膜の「メンブレン」で覆い、骨充填剤や自家骨を入れて骨再生を促します。

GBR法は、インプラント手術と同時に行う方法と、GBR法を行って顎の骨が回復したのを確認してからインプラント手術を行う方法があります。
ある程度顎の骨の厚みや高さがある場合には、インプラント手術と同時に行うことができます。

また、以前はメンブレンを取り出す必要がありましたが、吸収性のメンブレンも選択することができ、患者さまの負担を軽減しています。

ソケットリフト

ソケットリフトは、骨がある程度残っている時に行う方法で、比較的骨造成の範囲が狭い時に適用になります。
インプラントが1本程度の範囲のため、インプラントと同時に骨造成を行うことが可能です。
インプラントを埋入するための穴から骨充填剤を入れることができるため、患者さまの負担を軽減することができます。

サイナスリフト

サイナスリフトは多数の歯が欠損している状態で、比較的広範囲に骨造成が必要なケースに適用になります。
上顎洞を持ち上げてスペースを作り、その部分に骨充填剤を入れます。
骨の厚みが足りないため、インプラントは同時に手術を行わず、サイナスリフトを行って骨が再生できたのを確認してから、インプラント手術をします。

そのため、ソケットリフトと比較すると治療期間が長くなる傾向になります。

歯の保存を考えた部分入れ歯

部分入れ歯は非常に難しい治療法で、安易に作られた部分入れ歯はかえって残存歯の寿命を縮めてしまいます。熟慮された部分入れ歯は、残存歯の寿命を延ばす可能性があります。

【まとめ】

大切な歯を守るために、できる限り歯を残す治療も選ぶことができます。
いつまでもご自分の歯でしっかり噛めるようにするため、早めに治療を開始しましょう。
また、虫歯にならないように予防することも大切です。
お口の健康を維持して、大切な歯をできるだけ残してくださいね。