
本論文の概要
本研究は、化学物質を用いて膀胱に炎症を起こしたラットに歯髄幹細胞を注入し、その治療効果を検証したものです。本研究の結果、歯髄幹細胞を膀胱内に注入した群では、炎症の軽減、組織の修復、排尿間隔の正常化、痛みの軽減などが確認され、歯髄幹細胞が膀胱の治癒を促す可能性が示されました。
研究背景
間質性膀胱炎( 痛みを伴う膀胱症候群) は、膀胱に慢性的な炎症や痛みを引き起こす疾患であり、原因の特定が難しく、治療が困難とされています。現在は主に、薬物療法による治療が行われますが、効果が限定的な場合もあります。
そこで、再生医療の一環として、幹細胞を使った新しい治療法が注目されています。
研究結果の意義
本研究では、歯髄幹細胞が、膀胱の炎症や組織損傷を軽減し、排尿機能や痛みの改善に寄与する可能性が示されました。歯髄幹細胞は、膀胱の内側(上皮)に一時的にとどまり、炎症を抑えるサイトカイン(免疫反応)や成長因子(VEGF、FGF-2、MCP-1など)を分泌することで、組織の修復を促進していると考えられます。
本研究により、歯髄幹細胞が、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群のような難治性膀胱疾患に対する新たな治療選択肢となる可能性が見出されました。
詳細
動物実験の効果(ラット膀胱炎モデル)
炎症を起こしたラットの膀胱内に歯髄幹細胞を注入することで、下記の結果が得られた。
- 炎症( 浮腫・出血・細胞浸潤)の軽減が確認された。
- 排尿間隔が延長し、頻尿傾向が改善した。
- 痛み刺激に対する反応(舐めるなど) が減少した。
- 膀胱上皮の修復が進み、アポトーシス(細胞死) も抑制された。
参考文献
Hirose Y, Yamamoto T, Nakashima M, Funahashi Y, Matsukawa Y, Yamaguchi M, Kawabata S, Gotoh M. Injection of Dental Pulp Stem Cells Promotes Healing of Damaged Bladder Tissue in a Rat Model of Chemically Induced Cystitis. Cell Transplant. 2016;25(3):425-36. doi: 10.3727/096368915X689523. Epub 2015 Sep 21. PMID: 26395427.