
研究成果の概要
本研究は、歯髄幹細胞が坐骨神経挫傷(圧迫による神経障害)の回復を促進するかを調べたものです。ラットの坐骨神経を30分間圧迫し、その部位に歯髄幹細胞を移植したところ、運動機能の回復が早まり、神経の構造的な修復も進んでいることが確認されました。
研究背景
末梢神経の挫傷は、事故や手術の失敗などで起こり、しびれや麻痺といった後遺症を引き起こします。特に「圧迫による挫傷」は、自然回復が期待される一方で、完全な機能回復には時間がかかり、後遺症が残る場合もあります。
そこで、歯髄幹細胞を使った再生医療が、こうした神経損傷の回復を早める手段として注目されています。
研究成果の意義
本研究は、歯髄幹細胞・前駆細胞が、坐骨神経挫傷において、自然治癒を上回るスピードで機能回復を促すことを示しました。歯髄幹細胞を損傷部位に移植することで、歩行機能の改善、筋肉の萎縮の抑制、神経の再ミエリン化(神経の絶縁構造の再生)が確認されました。
さらに、移植した細胞は損傷部位に生着し、神経の修復を助ける因子(パラクライン因子)を分泌していたことが示唆されました。これにより、歯髄幹細胞は「坐骨神経挫傷に対する補助的な治療法」としての可能性が期待されます。
研究成果の詳細
細胞の特徴と働き
- 歯髄幹細胞・前駆細胞は、抜歯した親知らずから採取。
- VEGF、BDNF、GDNFなどの神経栄養因子・血管新生因子(パラクライン因子)を分泌。
- 神経を直接作るのではなく、神経の修復を助ける「サポート役」として働く(パラクライン効果)。
動物実験での効果(ラット坐骨神経“挫滅”モデル)
- 歯髄幹細胞・前駆細胞を移植した群では、歩行機能の回復が早く、筋肉の萎縮も軽減。
- 神経の構造が整い、ミエリン鞘の再生が進んでいた。
- 神経内の空隙( ダメージの痕跡) や空胞( 損傷の指標) が少なかった。
- ヒト由来の細胞が損傷部位に生着していたことも確認された。
参考文献
Okuwa Y, Toriumi T, Nakayama H, Ito T, Otake K, Kurita K, Nakashima M, Honda M. Transplantation effects of dental pulp-derived cells on peripheral nerve regeneration in crushed sciatic nerve injury. J Oral Sci. 2018;60(4):526-535. doi: 10.2334/josnusd.17-0462. PMID: 30587687.