研究・論文

歯髄幹細胞が手足の神経を再生?末梢神経損傷に対する新たな治療法の可能性

歯髄幹細胞が手足の神経を再生?末梢神経損傷への新たな治療法の可能性

本論文の概要

本研究は、歯髄幹細胞が、末梢神経(手足の神経)の再生にどのような効果をもたらすかを検証したものです。ラットの坐骨神経に5mmの欠損を作り、そこに歯髄幹細胞を移植したところ、神経の再生が促進され、血管の新生や神経の修復が確認されました。

研究背景

末梢神経が事故や疾患、遺伝的要因などで損傷を受けると、感覚や運動機能の障害が引き起こされます。現在は「自家神経移植」が標準治療として実施されていますが、この治療法は体内の別の神経を犠牲にする必要があり、痛みや感覚の喪失などにおいて課題があります。

そこで、幹細胞を使った新しい治療法が注目されています。中でも、歯髄幹細胞は神経のもとになる「神経堤(しんけいてい)」由来の幹細胞のため、神経の再生に適していると考えられています。

研究結果の意義

本研究によって、歯髄から得られる歯髄幹細胞が、末梢神経の再生において非常に高い効果を持つことが示されました。特に、歯髄幹細胞は神経を直接作るのではなく、神経を支える「シュワン細胞」という細胞の働きを助けることで、神経の再生を促進すること、また、VEGF(血管内皮増殖因子)やBDNF(脳由来神経栄養因子)などの再生を助ける物質を分泌し、血管の再生や神経細胞の生存をサポートすることが示唆されました。

これらの結果より、歯髄幹細胞は、従来の自家神経移植に代わる新しい治療法の鍵となる可能性が見出されました。

詳細

動物実験の効果(ラット坐骨神経モデル)

  • 歯髄幹細胞を移植した群では、神経の密度が高く、血管の再生も顕著であった。
  • 歯髄幹細胞を移植した群においては、神経の太さは自家神経移植群に劣るが、再生された神経の数は同等であった。
  • 歯髄幹細胞移植により再生が促進された神経は、炎症が少なく、細胞死(アポトーシス)も抑えられていた。
  • 歯髄幹細胞移植により、シュワン細胞の増殖が促進された。

生体外試験の効果

  • 歯髄幹細胞の培養上清液は、シュワン細胞の移動・増殖・生存を促進した。
  • 歯髄幹細胞は特に、細胞死を抑える効果が高く、神経再生に有利な環境を作ることが示唆された。

参考文献

Yamamoto T, Osako Y, Ito M, Murakami M, Hayashi Y, Horibe H, Iohara K, Takeuchi N, Okui N, Hirata H, Nakayama H, Kurita K, Nakashima M. Trophic Effects of Dental Pulp Stem Cells on Schwann Cells in Peripheral Nerve Regeneration. Cell Transplant. 2016;25(1):183-93. doi: 10.3727/096368915X688074. Epub 2015 Apr 22. PMID: 25903498.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25903498/

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