
研究成果の概要
本研究は、歯髄幹細胞が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を防ぐ治療法として使える可能性を検討したものです。COVID-19が重症化すると、肺の中で「サイトカインストーム」と呼ばれる免疫機能の暴走が起こり、呼吸困難や臓器障害を引き起こします。
本研究において、歯髄幹細胞は、炎症を抑える作用(免疫調整)と、傷ついた組織を修復する力(再生能力)を持っており、これらの症状を改善できる可能性が示唆されました。
研究背景
COVID-19の重症患者は、肺の中で多量の炎症性サイトカインが放出される「サイトカインストーム」と呼ばれる過剰な免疫反応が起こっており、これが呼吸困難や臓器障害の要因となっています。現在の治療法ではこの免疫暴走を直接抑える方法がなく、症状を和らげる対症療法が中心です。
そこで、炎症を抑え、組織を修復する能力を持つ幹細胞(特に歯髄幹細胞)に注目が集まっています。
研究成果の意義
歯髄幹細胞は他の幹細胞と比べ、高い免疫調整作用と再生能力を持っており、COVID-19の重症化により過剰な免疫反応を抑制できる可能性があります。さらに、歯髄幹細胞は肺の損傷部位に集まり、血管や神経の再生を促す可能性も示唆されています。
このことから、歯髄幹細胞はCOVID-19に対する新しい細胞治療の選択肢として非常に有望です。
研究成果の詳細
免疫調整作用
- 歯髄幹細胞は、T細胞、B細胞、マクロファージ、樹状細胞などの免疫細胞の働きを調整し、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6など)の分泌を抑制。
- M1型マクロファージを抑制し、M2型(抗炎症型)への分化を促進。
- Treg細胞(免疫抑制型T細胞)の増加、Th17細胞やNK細胞の活性抑制。
- TGF-β、PGE2、IDO、HLA-G5などの免疫抑制因子を分泌。
再生能力
- 血管新生や神経再生を促進する成長因子(VEGF、HGF、IGF、SDF-1など)を分泌。
- 移植後、歯髄幹細胞自身は新組織に取り込まれず、主にパラクライン効果(周囲細胞への影響)で再生を促進。
- 心筋、神経、肝細胞様細胞などへの分化能も報告されている。
COVID-19との関連
- 歯髄幹細胞はACE2受容体を持たないため、SARS-CoV-2に感染しにくい。
- 静脈から注入された歯髄幹細胞は肺に集まり、炎症を抑え、損傷組織の修復を促進。
- 臨床試験(例:NCT04336254)では、安全性と有効性の評価が進行中。
参考文献
Zayed M, Iohara K. Immunomodulation and Regeneration Properties of Dental Pulp Stem Cells: A Potential Therapy to Treat Coronavirus Disease 2019. Cell Transplant. 2020 Jan-Dec;29:963689720952089. doi: 10.1177/0963689720952089. PMID: 32830527; PMCID: PMC7443577.