
本論文の概要
本研究では、ブタから採取した歯髄幹細胞の自己複製能力と多分化能(象牙芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、神経細胞への分化能)を評価しています。また、骨形成たんぱく質(BMP2)を用いて象牙芽細胞に分化させた細胞を、イヌの歯髄に移植することで、実際に象牙質様組織が再生されるかを確認しています。
研究背景
歯の神経である歯髄は、虫歯菌などにより最近感染した周囲の象牙質を修復・再生する力を持っていますが、その中心的な役割を担う幹細胞の正体はまだ十分に解明されていませんでした。
そこで本研究では、歯髄幹細胞の性質を詳しく解析し、将来的な再生医療への応用の可能性を検討しています。
研究結果の意義
本研究の結果、歯髄に存在する歯髄幹細胞が自己複製能力を持ち、象牙芽細胞だけでなく、軟骨・脂肪・神経といった多様な細胞に分化できる「多能性幹細胞」であることが明らかになりました。また、骨形成因子(BMP2)を用いて象牙芽細胞に分化した細胞を、イヌの歯髄に移植した結果、象牙質様組織の再生が確認されました。
これらの結果、歯髄幹細胞が将来、歯の再生治療だけでなく、他の組織再生医療にも応用できる有望な細胞源であることが示されました。
詳細
歯髄幹細胞の特性
- 幹細胞マーカー(CD105,CD150)や自己複製に関わる遺伝子(Stat3, Bmi1, Tert)を高いレベルで発現していることが示された。
- 長期間の増殖が可能で、非幹細胞性の歯髄細胞と比較して増殖寿命も長いことが確認された。
- 分化マーカー(Dspp, MMP20, Col1など)は発現しておらず、未分化の状態が保たれていることが示された。
歯髄幹細胞の分化能
- 象牙芽細胞への分化:BMP2の添加によりDspp, MMP20, Dmp1の発現が上昇し、石灰化と象牙質様基質形成が確認された。
- 軟骨細胞への分化:細胞全体の約30%でAlcian Blue染色陽性、Col2, Aggrecan発現が確認され、軟骨細胞への分化能が示された。
- 脂肪細胞への分化:Oil Red O染色陽性、aP2, PPARγの発現が確認され、脂肪細胞への分化能が示された。
- 神経細胞への分化:細胞全体の90%以上がニューロスフィア(神経球)を形成し、ニューロモジュリンとニューロフィラメントの発現が確認されたことから、神経細胞への分化能が示された。
象牙質形成(イヌ抜髄モデル)
- BMP2添加歯髄幹細胞をイヌの抜髄歯に自家移植した結果、象牙芽細胞様細胞と象牙質様組織が形成された(DsppとMMP20の発現が確認された。)
- 対照群(BMP2添加なし)では、象牙質再生が限定的で、DsppやMMP20の発現は見られなかった。
参考文献
Iohara K, Zheng L, Ito M, Tomokiyo A, Matsushita K, Nakashima M. Side population cells isolated from porcine dental pulp tissue with self-renewal and multipotency for dentinogenesis, chondrogenesis, adipogenesis, and neurogenesis. Stem Cells. 2006 Nov;24(11):2493-503. doi: 10.1634/stemcells.2006-0161. Epub 2006 Jul 27. PMID: 16873765.