
本論文の概要
本研究は、あるイヌの個体から採取した歯髄幹細胞を、別の個体の抜髄歯に移植し、歯髄組織が再生されるかどうか、また免疫拒絶などの有害事象が生じないかを検証したものです。
特に、遺伝子型(主要組織適合遺伝子(DLA)の型)が一致していない他家由来の幹細胞を用いた場合でも、安全かつ効果的に歯髄が再生されるかを評価しています。
研究背景
歯髄幹細胞を用いた自家移植は、歯髄再生において有望な治療法ですが、抜歯できる不用な歯がない患者はこの治療を受けることができません。そのため、他人の歯髄幹細胞を用いた治療(他家移植)が新たな選択肢として注目されています。
しかし、免疫による拒絶反応のリスクや、繰り返しの移植における安全性については、これまで十分な検証がされていませんでした。
そこで本研究では、別のイヌ個体から採取された歯髄幹細胞を移植することによる免疫拒絶反応や、繰り返し細胞移植を行う際の安全性についての検証が行われました。
研究結果の意義
本研究では、DLA遺伝子型が一致していない他家の歯髄幹細胞を用いた歯髄再生が、安全かつ効果的であることが動物モデルにより実証されました。
さらに、同じ細胞を2回移植しても有害事象は認められず、再生された歯髄組織の質や量が変わらないことも確認されました。これらの結果は、将来的に他人の幹細胞を活用した「他家移植」による再生治療を実現するにあたり、大きな一歩となるものです。
詳細
イヌ抜髄歯に対する歯髄幹細胞移植における機能評価
(DLA(イヌの白血球抗原)適合細胞の移植と不適合細胞の移植を比較)
- 抜髄歯にDLA適合細胞、DLA不適合細胞のどちらを移植した場合も、歯髄様組織が同様に再生した。このとき、再生組織は根管の80%以上を占め、細胞密度や組織構造も良好であった。また、再生組織は歯髄マーカー(TRH-DEなど)を発現しており、歯髄様組織と確認された。
- DLA適合細胞、DLA不適合細胞のどちらを移植した場合も、血管新生・神経再生・象牙質形成のすべてにおいて、質的・量的な差はみられなかった。
- 適合DLAおよび不適合DLAを有する歯髄幹細胞の二重移植においても、炎症や免疫反応は見られず、安全性が確認された。
参考文献
Iohara K, Utsunomiya S, Kohara S, Nakashima M. Allogeneic transplantation of mobilized dental pulp stem cells with the mismatched dog leukocyte antigen type is safe and efficacious for total pulp regeneration. Stem Cell Res Ther. 2018 Apr 27;9(1):116. doi: 10.1186/s13287-018-0855-8. PMID: 29703239; PMCID: PMC5921747.