
本論文の概要
本研究は、重度の虫歯によって歯髄を除去(抜髄)した患者に対して、患者自身の歯から採取した歯髄幹細胞を移植し、歯髄が再生されるかどうかを検証した世界初の臨床研究です。
5人の患者に対して、歯髄幹細胞をG-CSFとともにコラーゲンに入れて移植し、安全性と歯髄再生効果を24週間にわたって評価しています。
研究背景
歯髄を取り除いた歯は構造的に脆くなり、再感染や破折のリスクが高まる傾向があります。従来の歯内治療では、歯の構造や機能を回復させることは不可能ですが、歯髄幹細胞を用いた歯髄再生治療は、歯の本来の構造と機能を回復させる新しい治療法として注目されています。
本研究では、分離した再生能力の高い歯髄幹細胞とG-CSFという薬剤を用いて、ヒトでの歯髄再生治療の安全性と有効性を初めて検証しました。
研究結果の意義
本研究は、ヒトにおいて歯髄幹細胞を移植することで歯髄を再生できることを初めて示した臨床研究です。G-CSFを併用することで、神経や血管を含む歯髄の再生や象牙質の形成が確認され、歯の機能が回復する可能性が示されました。この成果は、再生歯内療法の実現に向けた大きな前進となります。
詳細
細胞の特性評価
- 歯髄幹細胞はCD29、CD44、CD105陽性、CD31陰性で、細胞生存率は平均83%であった。
- 染色体異常や微生物汚染は認められず、細胞の安全性が確認された。
抜髄歯に対する歯髄幹細胞移植後の臨床評価
- 安全性:全例で移植後の有害事象はなく、血液・尿検査、心電図、X線検査でも異常はみられなかった。
- 感覚機能:電気歯髄診(EPT)では、移植前は全例で反応がみられなかったが、移植後4週以内に4例が陽性反応に転じ、神経再生が示唆された。
- MRI評価:再生組織の信号強度(SI)は、24週時点で正常歯髄とほぼ同程度で、非侵襲的に再生の進行を可視化できた。
- CT評価:3例で根管の内側(根管壁)への象牙質様硬組織の形成が確認され、歯髄の機能的な再生も確認された。
参考文献
Nakashima M, Iohara K, Murakami M, Nakamura H, Sato Y, Ariji Y, Matsushita K. Pulp regeneration by transplantation of dental pulp stem cells in pulpitis: a pilot clinical study. Stem Cell Res Ther. 2017 Mar 9;8(1):61. doi: 10.1186/s13287-017-0506-5. PMID: 28279187; PMCID: PMC5345141.