
研究成果の概要
本研究は、歯髄幹細胞とG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を組み合わせた歯髄再生の治療法について、「安全性」と「有効性」の両面から非臨床的に検証したものです。イヌの歯を用いた抜髄モデルにおいて、歯髄の完全な再生が確認され、かつ有害事象や副作用、腫瘍形成などのリスクも認められなかったことから、臨床応用に向けた重要な科学的根拠が得られました。
研究背景
従来の歯内治療では、虫歯などで感染した歯髄を除去することで歯の寿命を延ばす試みがなされます。しかし、神経を失った歯は脆くなり、将来的に破折や抜歯に至る場合があります。こうした課題に対し、幹細胞を用いた歯髄再生医療が注目されています。
本研究では、臨床グレードで製造された歯髄幹細胞と、G-CSFという既に医薬品として承認されている細胞成長・増殖因子を用い、安全性と有効性の両方を体系的に評価しています。
研究成果の意義
本研究は、歯髄幹細胞とG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を組み合わせた歯髄再生の治療法について、「安全性」と「有効性」の両面から非臨床的に検証したものです。イヌの歯を用いた抜髄モデルにおいて、歯髄の完全な再生が確認され、かつ有害事象や副作用、腫瘍形成などのリスクも認められなかったことから、臨床応用に向けた重要な科学的根拠が得られました。
さらに、細胞の染色体異常、無菌性、腫瘍形成、移植後の全身的安全性などを含む包括的な安全性評価も行われ、臨床応用に向けた基準を満たしていることが示されました。
研究成果の詳細
有効性の検証
- 歯髄幹細胞をG-CSFとともにイヌの歯の根管内に移植した結果、神経・血管を含む歯髄組織が根管全体に再生。
- 再生組織は、象牙質の形成、神経の再生、血管の新生、電気刺激への反応など、正常な歯髄と類似の機能を示した。
- 幹細胞単独やG-CSF単独と比較して、再生効果が有意に高かった。
安全性の検証
- 幹細胞は、細菌・ウイルス・マイコプラズマなどの汚染なし。
- 染色体の数や構造に異常は見られず、免疫不全マウスへの細胞移植後の腫瘍形成も認められず、イヌの歯に細胞移植後の体内での毒性や副作用(有害事象)なし。
- 血液・尿検査、臓器の病理検査でも異常所見なし。
参考文献
Iohara K, Murakami M, Takeuchi N, Osako Y, Ito M, Ishizaka R, Utunomiya S, Nakamura H, Matsushita K, Nakashima M. A Novel Combinatorial Therapy With Pulp Stem Cells and Granulocyte Colony-Stimulating Factor for Total Pulp Regeneration. Stem Cells Transl Med. 2013 Oct;2(10):818. doi: 10.5966/sctm.2012-0132erratum. Erratum for: Stem Cells Transl Med. 2013 Jul;2(7):521-33. doi: 10.5966/sctm.2012-0132. PMID: 28945010; PMCID: PMC3785266.