
研究成果の概要
本研究は、再生能力の高い歯髄幹細胞(CD105陽性細胞)を選別し、体内に存在する細胞を、根管内へ引き寄せるためのタンパク質(SDF-1)と一緒に移植することで、歯の神経や血管を含む歯髄・象牙質複合体組織を再構築できるかをはじめて検証したものです。
結果として、イヌの根の先が完成して閉じた歯(根完成歯)を用いたモデルにおいて、移植後14日で神経や血管を含む歯髄様組織が再生され、90日後には象牙質の形成が確認されました。また、再生組織は、正常な歯髄と同等の遺伝子発現を示し、機能的にも類似していることが明らかになりました。
研究背景
虫歯や怪我による感染や炎症で、歯髄を失うと、歯の寿命が短くなる傾向があります。従来の治療では、失われた歯髄を元通りに再生することは難しいとされてきました。近年、再生医療の進歩により、歯髄の再生が注目されていますが、特に根完成歯における完全な歯髄再生は依然として大きな課題でした。
本研究は、幹細胞の中から再生能力に優れた細胞を選別し、さらにその機能を高める因子と組み合わせて使うことで、より精度の高い歯髄再生を目指しています。
研究成果の意義
本研究の成果は、歯髄再生において「どの細胞を移植に使うか」「どのように移植細胞を根管内にとどめ、外から根管内に細胞を引き込むか(遊走促進)」が治療効果を大きく左右することを明確に示しています。特に、CD105陽性の歯髄幹細胞は、神経や血管の再生促進に必要な因子を豊富に分泌し、SDF-1との併用によってその効果がさらに高まることが実証されました。
また、脂肪由来の幹細胞や未選別の歯髄細胞と比較して、再生組織の質・量ともに優れていたことから、細胞選別の重要性と、SDF-1との組み合わせによる相加効果の有用性が強く示唆されました。k
研究成果の詳細
幹細胞の特性
- 歯髄幹細胞の中から、再生能力の高いCD105陽性細胞を選別。
- この細胞は、血管や神経の再生促進に関わる因子(VEGF, BDNF, NGFなど)を高発現。
- 脂肪由来の細胞よりも、神経・血管再生において優れた能力を示した。
イヌでの歯髄再生(抜髄モデルでの実験)
- 移植14日後に、神経と血管を含む歯髄様組織が再生。
- 90日後には、象牙質の形成も確認。
- 再生組織は、発現タンパク質の85%以上が正常な歯髄と一致し、遺伝子の発現パターンも類似していることから、再生組織は歯髄に極めて近い性質を持つと考えられる。
比較検証
- CD105陽性歯髄幹細胞+SDF-1が最も高い再生効果を示した。
- 脂肪由来細胞や未選別歯髄細胞、SDF-1単独では再生効果が限定的だった。
参考文献
Iohara K, Imabayashi K, Ishizaka R, Watanabe A, Nabekura J, Ito M, Matsushita K, Nakamura H, Nakashima M. Complete pulp regeneration after pulpectomy by transplantation of CD105+ stem cells with stromal cell-derived factor-1. Tissue Eng Part A. 2011 Aug;17(15-16):1911-20. doi: 10.1089/ten.TEA.2010.0615. PMID: 21417716.