研究・論文

歯髄幹細胞の神経・血管再生促進効果を確認―下肢虚血や抜髄モデルで有効性―

歯髄幹細胞の神経・血管再生促進効果を確認―下肢虚血や抜髄モデルで有効性―

研究成果の概要

本研究は、歯髄から得られる2種類の幹細胞(CD31⁻/CD146⁻SP)とCD105陽性歯髄幹細胞)が、神経と血管の両方の再生を促進する能力を本質的に備えていることを、複数の動物モデルで実証したものです。神経と血管の再生は、歯髄を除去した抜髄モデルでの歯髄再生においてだけでなく、足や脳の血流障害による虚血性疾患(下肢虚血、脳梗塞)モデルでも効果が確認され、これらの細胞が再生医療に広く応用できる可能性が示されました。

研究背景

歯髄は、血管と神経が密接に連携して機能しています。これまでの研究では歯髄再生に焦点が当てられてきましたが、本研究では、歯髄幹細胞そのものが持つ「神経と血管を同時に再生促進する力」に注目し、その力を歯だけでなく、虚血性疾患モデルでも検証しています。

研究成果の意義

本研究の最大の意義は、歯髄幹細胞が持つ再生能力の「質」と「汎用性」を科学的に裏付けた点にあります。特に、歯髄幹細胞から更に分離したCD31⁻/CD146⁻SP、あるいはCD105陽性の歯髄幹細胞は、血管や神経の再生に必要な因子を豊富に分泌し、損傷部位での再生を促進する力を持つことが明らかになりました。この細胞の力は、歯の治療にとどまらず、将来的には脳梗塞や血流障害など、他の再生医療分野にも応用できる可能性を示しています。

研究成果の詳細

幹細胞の特性と比較

  • CD105⁺細胞では、未分化幹細胞マーカーのCD150や、神経幹細胞マーカーであるCD271/p75(NTR)の発現がSP細胞より高い。
  • 脂肪、骨・象牙質、血管内皮、神経などへの多分化能を持つ。
  • 両者とも、培養上清は、他の細胞に対して、移動(遊走)促進・増殖促進・抗アポトーシス(細胞死抑制)作用を示す。
  • 神経栄養因子の遺伝子発現において、CD105⁺細胞ではGDNFとVEGFの発現が高く、SP細胞ではBDNF、NGF、VEGFが高い。

動物虚血モデルでの再生促進

  • ラットの下肢虚血モデル:血流回復と毛細血管の増加を確認。
  • ラットの脳虚血モデル:神経細胞の増加と運動機能の回復を確認。
  • イヌの生活歯髄切断モデル:14日で神経と血管を含む歯髄様組織が歯髄切断面上部に再生、35日で象牙質の形成も確認。
  • イヌの抜髄モデル:SDF-1とともに歯髄を全部除去した根管に移植すると、血管や神経を含む歯髄様組織が再生、象牙質形成も確認。幹細胞単独やSDF-1単独よりも、併用時の方が再生組織の量・質ともに優れる。

参考文献

Nakashima M, Iohara K. Regeneration of dental pulp by stem cells. Adv Dent Res. 2011 Jul;23(3):313-9. doi: 10.1177/0022034511405323. PMID: 21677085.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21677085/

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