
本論文の概要
この症例報告は、根尖性歯周炎が進行し、歯根先端部に炎症(根尖病変)が生じた40代男性の根完成歯に対して、患者自身の歯から採取した歯髄幹細胞を用いた再生治療を実施し、その安全性と効果を検証したものです。
治療後、神経の反応が回復し、炎症はほぼ消失しました。歯の根の内部(根管内)に歯髄様結合組織が再生され、根管壁に象牙質様硬組織が形成されたことが、電気歯髄診断やCT、MRIなどの画像診断で確認されました。
研究背景
歯髄再生治療に関するこれまでの主な研究対象は、歯根が未完成かつ歯髄壊死した若年者の歯や、歯根の先端に炎症のない抜髄歯でした。そのため、歯の根ができあがっていて、歯根に炎症や感染がある状態(根尖性歯周炎)の歯においては、幹細胞治療の有効性は十分に示されていませんでした。
本研究では、除菌された根管内に患者自身の歯から採取・培養した歯髄幹細胞を移植することで、歯髄の再生が可能かどうかを検証しています。
研究結果の意義
本論文で紹介された症例は、根尖性歯周炎を伴う根完成歯において、歯髄幹細胞を用いた再生治療が安全かつ有効であることを臨床的に示した初の報告です。治療後、神経の反応が回復し、歯根先端部の炎症が消失、根管壁に象牙質様の硬組織が形成されるなど、歯の本来の機能が再構築されたことが確認されました。
したがって、根尖性歯周炎を伴う根完成歯においても、従来の根管治療では得られない「歯髄の再生」や「象牙質の再生」が可能であることが示され、歯髄再生治療の新たな適応範囲を広げる成果となっています。
詳細
治療対象と方法
- 対象患者:44歳男性
- 治療が行われた患歯:上顎第一小臼歯、無症状の根尖性歯周炎
- 使用された幹細胞:患者自身の親知らずから採取された歯髄幹細胞
- 洗浄・貼薬による除菌:次亜塩素酸ナトリウム、EDTA、抗菌薬(レボフロキサシン)含有ナノバブル水。
- 移植方法: 歯髄幹細胞をコラーゲンとG – C S F に懸濁し、除菌された根管内に移植。
経過と評価
- 電気歯髄診断:細胞移植1週後に陽性反応が確認された(神経の再生が示唆された)。
- CBCT:移植から79週後に根尖病変がほぼ消失し、根管壁に象牙質様の硬組織が形成されたことが確認された。
- MRI:移植から24週後、再生組織組織の信号強度が正常歯髄と同等であることが確認された。
- 安全性:移植から79週時点の経過観察にて有害事象は確認されず、血液検査でも異常は見られなかった。
参考文献
Nakashima M, Tanaka H. Pulp Regenerative Therapy Using Autologous Dental Pulp Stem Cells in a Mature Tooth with Apical Periodontitis: A Case Report. J Endod. 2024 Feb;50(2):189-195. doi: 10.1016/j.joen.2023.10.015. Epub 2023 Nov 2. PMID: 37923123.