歯髄再生治療とは

歯髄(歯の神経)について

「歯髄(組織)」は歯の中心部に存在する神経・血管・リンパ管の集合組織のことで、一般に「歯の神経」と呼ばれています(「歯の心臓」と呼ばれることもあります。)歯の根の部分で体の組織とつながっており、痛みを感じたり、一本一本の歯に水分・栄養分を行きわたらせて、歯を丈夫に保つことが主な役割です。

【歯髄の役割と機能の例】
・歯に栄養分や水分を供給し、歯を白く丈夫に保つ
・(生え変わってから数年以内の)永久歯の成長を助ける
・痛みを伝えることで、虫歯や歯周病の発見を早める
・細菌抵抗力を持ち、虫歯の進行を防ぐ
・象牙質修復能力を持つ

【歯髄の色と感触】
色:通常薄いピンク色
感触:ぷるんとした柔らかい感触
(虫歯が進行して歯髄炎等になった歯は、歯髄が黒く変色し、弾力と共にその機能を失ってしまうことがあります。)

歯髄は普段目に見えないため、見た目や役割を知らない方が多いのではないでしょうか?
しかし、歯髄は私たちの歯と健康を見えないところで支えてくれています。

歯髄幹細胞(しずいかんさいぼう)とは

歯髄幹細胞(しずいかんさいぼう)とは、歯髄に存在する幹細胞です。

幹細胞分化能力(様々な組織の細胞に分化できる力)複製能力(自身と同じ細胞を増やすことのできる力)を持った特殊な細胞。様々な細胞を生み出す能力を持つことから、「細胞の生みの親」と呼ばれることもある。

幹細胞は、さい帯血や骨髄、脂肪組織など、私たちの体のあらゆるところに存在しています。中でも歯髄幹細胞は固いエナメル質に守られていることから、外部からの刺激を受けにくく、遺伝子に傷がつきにくいと考えられています。

また、歯髄幹細胞は他の幹細胞と比較して神経や血管に分化しやすいことが分かっています。

世界初の歯髄再生治療

歯髄幹細胞を用いた再生医療の一つが、「歯髄再生治療」です。

虫歯が進行した歯や事故やスポーツなどで怪我を負った歯の歯髄を取り除いて洗浄し、内部に歯髄幹細胞と薬剤を移植することで神経を再生させます。
この治療法は2020年に日本で承認されましたが、世界的にも先進的な治療法であり、話題となっています。

今までの治療法との違いは以下の通りです。

再生医療イメージ


【今までの治療法】
虫歯になると、まず歯のエナメル質の部分が溶けていきますが、やがて歯の内部へと進行し、歯髄に達します。すると、熱いもの・冷たいものがしみて、キーンとした痛みやじんじんとした痛みを感じるようになります(歯髄炎)。

このような虫歯が進行した歯に対しては、通常歯髄を抜き(抜髄)、セメントなどの人工物を詰める治療(根管治療・人工物充填)が行われます。神経を抜くと痛みを知らせる信号が届かなくなり、じんじんとした痛みは感じなくなりますが、栄養分を送る働きが失われ、歯の変色や破折(歯が折れること)の原因となります

神経を抜いた後再び虫歯になると、痛みを感じないため、気がつかないうちにどんどん進行し、歯の根の方へ達したときに突然激しい痛みに襲われることがあります。
さらに虫歯が進行すると、最終的には歯を抜かなくてはならないこともあります。

【歯髄再生治療】
歯髄を抜いた(抜髄した)歯に対して人工物を詰めるのではなく、神経をよみがえらせて抜歯のリスクを減らす治療法が「歯髄再生治療」です。

幹細胞を移植して元気な歯の神経(歯髄)を取り戻すことにより、再び歯に栄養分が行き渡るようになれば、丈夫な「自分の歯」を長く保つことに繋がります。また、歯髄組織は柔らかいクッションの役割を果たしているため、強い衝撃が加えられた時の歯が折れるリスクを減らすこともできます。

この治療法の開発により、従来の「神経を抜いて人工物を詰める」という治療の代わりに「神経を再生させる」という新たな治療方法が選べるようになりました。

今後自分自身以外(主に近親者)の、他人の歯髄幹細胞を用いた治療などを視野に入れて、更なる研究開発を進めています。