皆さんは、歯をゼロから生み出す「歯生え薬」という再生治療薬をご存知ですか?
通常人間の歯は、乳歯から永久歯に生え変わると、それ以上新しい歯が出てくることはありません。
しかし、現在国内で研究が進められている「歯生え薬」が誕生すると、新たにゼロから永久歯を生やせるようになる可能性があります。

また、歯をゼロから再生させる「歯生え薬」は未来の話ですが、まだ残っている歯の神経・血管を再生させる治療はすでに実用化されています。
そこで今回は、未来の歯科治療として実用化される可能性がある「歯生え薬」と、すでに実用化されている最新の歯科再生医療について詳しくご紹介します。

歯生え薬とは?

歯生え薬とは、京都のベンチャー企業「トレジェムバイオファーマ」の高橋先生らが研究開発を進めている、歯をゼロから再生させる画期的な再生治療薬です。2030年の実用化に向けて日々研究しています。

現在は、生まれつき永久歯が生えない疾患「先天性無歯症」の方への適用を目指した研究が行われており、2030年の実用化が期待されています
永久歯が先天的に欠損するのは、「USAG‐1」と呼ばれる体内の因子が、骨形成に関わる別の因子の働きを阻害していることが関係しています。

歯生え薬は、この「USAG‐1」の働きを抑制する成分が含まれています。これを体内投与することで、歯の芽(歯胚)の発達が促進され、その結果、新しい歯が生えてくると考えられています。

・先天性無歯症とは

私たちの歯は通常、乳歯は20本、永久歯は28本生えてきます。
※親知らずの4本を加えると永久歯は32本となります。

しかし、中には生まれつき歯の元になる歯胚(しはい)が成長せず、一部の歯が生えてこない方もいます。このように一部の歯が生えないことを先天性欠如と呼び、その数が6本以上の場合「先天性無歯症」と呼ばれる疾患に該当します。
この疾患の原因ははっきりと分かっていませんが、遺伝や薬の副作用、感染症や母親の妊娠中の栄養不足などが関係している可能性が指摘されています。

先天的に歯が1〜5本程度足りない先天性欠如の方は、10人に1人程度と高い割合で存在します。
一方、先天的に歯が6本以上欠損している「先天性無歯症」は、0.1%程度の発症確率と言われています。

・先天性無歯症を放置すると起きること

先天性無歯症をそのまま放置すると、一部の歯が存在しないため、すでに生えている歯が歯が無い空間側に倒れてくる可能性があります。また、上下で歯が生えている箇所と生えていない箇所が存在する場合、噛み合わせができない箇所が発生し、生えている側の歯が必要以上に伸びてしまうこともあります。

噛み合わせのバランスの悪さから「顎関節への悪影響」「滑舌への悪影響」「歯並びの乱れ」「審美的な問題」などを引き起こし、噛む・飲み込む・話すといった機能が弱くなってしまいます。

歯を失った時の治療法としては、インプラントや入れ歯が存在しますが、幼い子どもの場合、顎が発達途中のためインプラント治療は適用になりません。
インプラント治療を希望する場合は、顎の成長が成熟した18歳以上から治療可能となるクリニックが多いでしょう。

また、お口の状態に応じて矯正治療なども検討されます。

先天性無歯症を発見するには

先天性無歯症は、レントゲン撮影をして、顎の骨の状態を確認した時にはじめて発見されることが多い疾患です。
定期的に歯医者に受診をしていると、歯が生えてくる時期になっても顎の骨に歯胚がないことを確認することができます。こうして先天性無歯症を早期発見できると、周りの歯に影響が出ないように早めに対処することが可能です。

歯生え薬の開発のきっかけ

歯生え薬の開発は、歯が多く生えてくる過剰歯マウスの発見がきっかけとなったようです。
2005年ごろ、ある遺伝子を欠損させたマウスが過剰歯となることが分かり、その遺伝子によって合成される因子が「USAG-1」であることが見出されました。

そこで、高橋先生らのグループは、この「USAG‐1」を不活性化することで、歯の数を増やすことができると考え、「マウス抗USAG‐1抗体」を作り出しました。

そして、歯が少ないマウスに1回投与すると、歯が生えてくることが確認されました。
その後、フェレットでも同様に歯が生えてくることが確認されたため、現在はヒトへの実用化に向けて研究が進んでいます。

現在の研究状況

マウス・フェレットでの成功をきっかけにヒトへの安全性や治療薬精製の検討、製造方法などの検討を行っています。
臨床試験を開始して、将来的には臨床でも活用できるように研究が進められています。
そして、将来的には、先天的に歯が無い方だけでなく、後天的に歯を失った方への実用化も目指しています。

歯髄再生治療の可能性

歯生え薬はまだ実用化前ですが、歯の再生医療の分野では、世界初となる「歯髄(しずい)再生治療」が日本で実用化されています。ここでは、歯科の最先端再生医療として、歯の神経を再生させる歯髄再生治療をご紹介します。

歯髄再生治療とは

歯髄は、歯の中に存在する血管・神経の集合組織であり、歯に水分や栄養を届ける、痛みを伝える、傷ついた硬組織(象牙質)を修復するなど、歯を丈夫に保つ上で重要な機能を果たしている組織です。
しかし、日本人の3人に1人は、虫歯や外傷などが原因で、歯髄が失われた歯を持っていると言われています。
歯髄再生治療は、このような原因で失われた歯髄およびその周囲の象牙質を再生させ、歯の寿命を伸ばすことを目指す再生医療です。

虫歯が神経まで広がっていたり、外傷で強い力がかかると歯の神経である歯髄が壊死し、これを取り除く治療(根管治療)が必要になる場合があります。
この根管治療では、根管内に存在する細菌や汚れを取り除くために、歯の内部の硬組織(象牙質)が削られますが、こうして削られた歯は通常よりも強度が低下します。さらに歯髄が果たしていた機能を失った歯は、欠けたり割れたりする可能性が高くなり、歯の寿命が縮まってしまう可能性が高まります。

歯髄再生治療では、抜歯が必要な親知らずや乳歯、矯正治療で抜く歯などの中から「歯髄幹細胞」を取り出して培養し、歯髄が失われた歯の根管内に移植することで、歯髄の再生を促します。歯髄からの栄養・酸素の供給の再開や、削られた象牙質の再形成が期待できます。

歯髄喪失によるデメリット

私たちの歯から歯髄が失われると、以下のようなデメリットが発生する可能性があります。

・歯が黒や灰色、黄色などに変色する
・痛みに気付けず、虫歯や歯周病が進行する
・歯への水分・栄養の供給が止まる
・歯髄周囲の硬組織(象牙質)を修復・再形成する能力を失うため、歯が脆くなる
・歯が割れたり折れたりするリスクが高まる

歯髄幹細胞とは

幹細胞は、私たちの身体を構成するあらゆる組織のもとになる細胞であり、組織を再生・修復する能力を持ちます。

歯髄幹細胞は、歯の神経である歯髄の中に存在する幹細胞であり、抜歯をした歯の中から採取することが可能です。特に神経や血管を再生・修復する能力や、増殖する能力が高いことが分かっています

歯髄再生治療により、歯髄が失われた歯に歯髄幹細胞を移植すると、失った歯髄の機能再生が期待できる他、歯髄幹細胞の力を心疾患や脳血管疾患、アルツハイマーなどの治療にも応用できるように研究が進められています。

こうした将来の可能性を秘めた歯髄幹細胞は、将来の再生医療に備えて下記サービスで半永久的に冷凍保管しておくことが可能です。

アエラスバイオ歯髄幹細胞バンク

親知らずや乳歯、矯正で抜く歯などから歯髄幹細胞を採取・培養し、半永久的に凍結保管するサービスが「アエラスバイオ歯髄幹細胞バンク」です。

保管した細胞は、必要なときに必要なだけ増やして「歯髄再生治療」に使用できるほか、現在研究が進められている血管・神経系の疾患治療が実用化された際にも利用できる可能性があります。

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【まとめ】

歯生え薬は現在は研究段階ですが、マウスやフェレットを使用した実験では歯を増やすことに成功しています。
2030年を目途に、先天性無歯症の方に適用し、歯を生やすことができるよう研究が進められています。
また、さらに将来的には、虫歯や歯周病などで後天的に歯を失った場合にも応用できる可能性が期待されています。

歯科治療は日々進歩しており、歯髄幹細胞を用いて失われた歯髄(歯の神経・血管)を再生する「歯髄再生治療」が、2020年に日本で実用化されています。
抜歯する歯から採取・培養した歯髄幹細胞は、将来の再生医療に備えて半永久的に冷凍保管しておくこともできますので、ぜひご検討ください。

※細胞保管サービスが気になる方は、下記の問い合わせフォームよりご相談ください。

アエラスバイオお問い合わせフォーム