八重歯とは歯列からはみ出て、他の歯と重なって生えている歯のことです。
八重歯が生えていると、隣合う歯との間に汚れが残りやすく、トラブルの原因になりやすいでしょう。
特に八重歯になりやすい犬歯は、かみ合わせの中で大切な役割を担う歯のため、できるだけ抜歯をしないで対応することが理想ですが、抜歯をする方が良いケースもあります。
ここでは、八重歯によって起こりうるトラブルや改善方法、抜歯が必要になった時にできることについてご紹介します。

八重歯はどのような状態?

八重歯は、歯が並ぶスペースが足りないことで両隣の歯よりも前に出ている状態の歯です。
一般的に前から3番目の犬歯であることが多いです。
なぜ八重歯になってしまうかといいますと、その理由は歯の生える順番にあります。
6歳ごろになると上下の前歯や第一大臼歯といった大人の歯が徐々に生えてきます。
そのあと側方歯群と言って前から数えて4。5番目が生えてきます。
順番に言うと1.2.6→4.5です。
そうなんです。3が糸切り歯の位置にあたるため顎に対して前歯が大きい場合や、6番目の臼歯が先に生えて、犬歯(3)が生えるスペースが狭くなり仕方なく頬っぺた側に乗り出すように八重歯になることがあります。
なお、犬歯以外でも重なって生えることを意味しているため、八重歯と呼ばれることがあります。

海外では、ドラキュラや悪魔の歯を連想させるなど、マイナスなイメージとして捉えられることも多いです。英語でヴァンパイアティースとも言います。
日本では八重歯をチャームポイントと考える場合もあるようですが、海外からしたら大変醜い姿の意味合いもありグローバル化が進む昨今では、機能面のみならず見た目からも考えて改善した方が良いケースもあります。

八重歯を放置すると起きること

八重歯をそのまま放置することにより起こる可能性がある、さまざまなリスクについてご紹介します。

・ほかの歯に負担がかかりやすい

八重歯は両隣の歯と比較すると前に出ているため、かみ合わせのバランスが悪くなることがあります。
うまくかみ合わせていない歯があると、ほかの歯に負担がかかりやすくなってしまいます。
八重歯になりやすい犬歯は上顎・下顎共に根っこが一番長く長期的に考えても丈夫な歯にもかかわらず、負荷を与えないなんて宝の持ち腐れです。その分その後ろや前の小さな歯に負荷がかかり知覚過敏やマイクロクラックが生じて虫歯になりやすい歯の状態になってしまいます。

・ 虫歯・歯周病のリスク

八重歯があると、歯列面がデコボコとしているため、その部分に汚れが残りやすくなるうえに、歯ブラシが当たりにくくなります
そうすると、磨き残しが増え、歯周病菌や虫歯菌が増殖しやすい口内環境となり、虫歯や歯周病のリスクが高くなります。
また、虫歯や歯周病の治療をしても、汚れが残りやすいため、再発しやすいといった特徴もあるでしょう。
歯周病治療は基本的に歯の根の固まった硬い汚れを鎌状のものではがしとる治療になりますが、歯石が奥深く狭いところに付着してしまうと器具が入らず、治療の効果が期待できない治療にもなりかねません。
また、抜歯を余儀なくされ抜いたほうが清掃しやすくなるケースもあります。

・口呼吸になりやすい

通常は、鼻で呼吸をする鼻呼吸ができることが理想ですが、八重歯が前に出ていると、口が閉じにくい傾向があります
そのため、無意識のうちに鼻呼吸ではなく、口呼吸をする頻度が増えてしまうことがあります。

口呼吸を行うと口の中が乾燥し、歯の汚れが付きやすく取れずらい状況になり歯の着色や、口臭の原因、虫歯・歯周病のリスクが高くなります
また、口周りの筋力も低下するため、ほうれい線やたるみの原因にもつながってしまいます。

・見た目が気になる

八重歯は、他の歯と比べて前に出ているため、見た目が気になる方も少なくありません。
毎日鏡を見てストレスを感じるようであれば、矯正治療や抜歯も選択肢の一つとなります。

八重歯のむし歯や歯周病を予防するためには

八重歯は、他の歯と比べて虫歯や歯周病になりやすいため、予防を行うことが大切です。
以下に、具体的な予防の方法についてご紹介します。

丁寧なセルフケア

歯ブラシだけで毎日歯磨きをしていても、磨きにくい部分には汚れが残ってしまいがちです。
八重歯などの歯が重なり合っている部分は特に汚れが残りやすいため、歯ブラシだけでは無く「デンタルフロス」などのデンタルグッズを併用しましょう。
また、ピンポイントで汚れを落とすために、毛束が1つになっている「タフトブラシ」を利用することもおすすめです。
また、歯ブラシのストロークが1本低い位置にあるため歯ブラシがあたりづらいので、鏡を見ながら磨くことを進めます。
ながら磨きでは、歯ブラシの毛先があたりづらい位置に歯が生えていることも特徴です。

定期的な検診

丁寧にセルフケアをしていても、八重歯のような磨きにくい部分があると、汚れが残ってしまうことがあります。
そのため、定期的に検診を受けて虫歯や歯周病がないかを確認し、お口の中をクリーニングして清潔に保ちましょう。

八重歯を改善するためには?

次に、八重歯を改善する方法をご紹介します。

八重歯を改善するためには、どのような治療法を選択すべきなのでしょうか。下記で治療方法をご紹介します。

・矯正治療

八重歯を改善するための治療方法としてスタンダードなものが、矯正治療です。矯正治療には、主に2つの方法があります。

ワイヤー矯正

ワイヤー矯正は、歯の表面にブラケットをつけてワイヤーを通し、適切な力をかけて歯を動かす治療法です。幅広い歯並びに対応できるため、多くの症例に有効です。

これまでは、金属の装置が主流だったため、見た目が気になるという意見も数多くありました。しかし、最近では白や透明の審美ブラケットやワイヤーを選択することができるようになり、矯正中の装置の見た目が分かりにくくなっています。

また、歯の表側に装置をつける「表側矯正」だけでなく、歯の裏側に装置をつける「裏側矯正」も登場してきました。裏側に装置を付けるため、矯正中に装置がほとんど見えにくいというメリットがあります。
ただし、歯と装置の間に食べ物がはさまりやすいというデメリットがあるため、定期的に装置の周りを丁寧に磨く必要があります。
さらに、八重歯の位置にブラケットがつくと、唇が乗っかり唇を閉じづらくなる時期が初期にあります。口内炎が最初に頻発することもございます。

【費用の目安】
・表側矯正
70~100万円程度
※装置の種類によっても費用が異なり、金属の場合は費用が抑えられる傾向があります。

・裏側矯正
100~120万円程度

上記のほか、診断料や調整料、メンテナンス料が必要となる場合があります。
費用の内訳は歯科医院によっても異なるため、治療がスタートする前に費用の目安や、これからかかる費用を確認しておくと安心でしょう。

マウスピース矯正

マウスピース矯正は、口の中をスキャンして、個々人に合わせたマウスピースを作製・装着することで、歯を動かす方法です。段階的に形の違うマウスピースに交換していきますが、透明のマウスピースを使用するため、矯正中も目立ちにくい特徴があります。
また、取り外しができるため、食事や歯磨きの時も矯正前と同じように過ごすことができるでしょう。

ただし、1日20〜22時間の装着が必要なため、自己管理が必要です。
食事の後「ちょっとくらい……。」と外している時間が長くなってしまうと治療計画通り治療が進まない場合があります。

移動距離は、1マウスピース0.25mmが最大でしっかり装着していないと全く歯が動いてない状況や、違った方向に動くことがあるので取り扱うにはそれなりのモチベーションが必要です。

【費用の目安】

マウスピース矯正
80~100万円程度

抜歯

歯は、できるだけ残したいものですが、八重歯はお口の状況によっては抜歯した方がよいこともあります。マウスピース矯正にて抜歯ケースを行う場合は更に装着時間に気を使いましょう。

八重歯の抜歯が検討される状態

八重歯の抜歯が検討される場合は、どのような状態なのでしょうか。

・八重歯を抜歯した方が噛み合わせが改善しやすい場合

八重歯以外は歯列に乱れがほとんどなく、八重歯が歯列から完全にはみ出ている場合には、抜歯を行うことで歯並びや噛み合わせが改善される場合があります。

・八重歯の寿命が短くなっている場合

八重歯は磨きにくく、虫歯になってしまうことも多いです。大きな虫歯になっている場合や根が割れている場合、あるいは何度も治療を繰り返している場合には、八重歯を抜歯したほうが良いケースもあります。

・八重歯の重なりで歯周病のリスクが高くなる場合

八重歯は、ほかの歯と重なっていることが多く、虫歯だけでなく、歯周病リスクも高い歯です。
そのため、すでに歯周病になっていたり、大幅に歯列から乱れて顎の骨が薄くなっている場合などは、抜歯が検討される場合があります。

八重歯を抜歯しなくても良い状態

状況によっては、八重歯の抜歯が不要な場合があります。

ほかの歯を抜歯して矯正治療が可能な場合

矯正治療を行う際、歯のスペースを確保するために、前から4番目の歯(八重歯の後ろの歯)を便宜的に抜歯されることがよくあります。
3番目の歯よりも歯が小さく貧弱な4番目の歯は食事において3よりも重要性が低いことがあります。4番目の歯を抜歯することにより、スペースができて歯列を奥に下げやすくなり、八重歯や出っ歯、受け口の改善もしやすくなります。

・IPR(歯の研磨)をして矯正治療が可能な場合

IPRは、歯と歯の間をやすりをかけるように研磨して、スペースを確保する方法です。
歯の健康に影響がない程度に0.2〜0.5ミリ程度の範囲でスペースを作ります。

1か所ではわずかなスペースですが、本数が増えることで歯を動かして移動するスペースを確保でき、その後矯正治療を行うことで歯列を整えることができます。
ただし、歯並びの状態によってはIPRでは対応ができず、抜歯が必要な場合もあります。
IPRを行うことで健康な歯が少なからず削られるので、IPR量は最小限に歯の列の拡大を行い配列できないケースは抜歯を行う方が賢明です。

八重歯やほかの歯を抜歯する際にできること

上述のように、矯正治療の際、歯を並べるスペースが足りない時には「便宜抜歯」をして歯が並ぶスペースを確保することがあります。
スペースが足りないまま矯正治療を進めると、歯並びが整わなかったり、治療後に時間経過により後戻りしてしまう可能性があるため、便宜抜歯は重要な意味を持ちます。
しかし、健康な歯を抜歯することに抵抗がある方もいるのではないでしょうか。

抜いた健康な歯を、将来の歯科治療・医科治療に備えて冷凍保管するサービスが登場しているため、以下に詳細をご紹介します。

抜歯する歯に含まれる「歯髄幹細胞」を保存する

抜歯した健康な歯の中には、私たちの体の血管や神経、骨などを再生する力を持った「歯髄幹細胞」が存在します

「幹細胞」は、私たちの体を構成する様々な細胞の元となっている特別な細胞であり、傷ついた体の一部を再生する働きを持つため、現在様々な「再生医療」への活用が進められています。

歯髄幹細胞を活用した再生医療の研究は世界中で盛んに行われており、国内では2020年に、歯の神経や血管、リンパ管の集合組織である歯髄を再生させる「歯髄再生治療」が実用化されています
この治療のほか、歯髄幹細胞を用いた再生医療により、脊髄損傷やアルツハイマーなどの疾患を治療する研究も進められています。

こうした将来の再生医療に備え、抜歯する歯の中の歯髄幹細胞を、半永久的に冷凍保管するサービスが「アエラスバイオ歯髄幹細胞バンク」です。

本サービスの詳細は、以下のバナーからご確認いただけます。

漫画用バナー小_2話3

歯髄幹細胞を活用する歯髄再生治療とは

歯の中には、神経・血管・リンパ管が集まった歯髄(しずい)と呼ばれる組織が存在し、歯に栄養や血液を供給する働きや痛みを伝える働き、周囲の象牙質を修復する働きなど、様々な大切な働きを担っています。

しかし、虫歯が広がって歯髄まで感染すると、歯髄を除去して治療する必要があります。
これにより、歯への栄養や血液の供給がなくなり、知覚も失うため、歯にトラブルが起きても気づきにくくなってしまいます。
結果的に、歯が弱くなってしまい、歯髄のある歯と比較すると欠けたり割れたりする可能性が高くなります。

歯髄再生治療は、歯髄を失った歯に歯髄幹細胞を移植することで、歯髄の再生を促す方法です
前述のアエラスバイオ歯髄幹細胞バンクで歯髄幹細胞を凍結保管しておけば、いつでも歯髄再生治療を受けることができるようになります。
歯髄が再生すれば、歯への栄養や血液の供給が再開し、歯の内部の象牙質の再形成も期待できるため、歯の強度を取り戻すことができます。

楽しくわかる歯髄と歯髄再生治療

【まとめ】

八重歯を放置すると、噛み合わせに問題が生じたり、虫歯や歯周病のリスクが高まる可能性があります。

八重歯は矯正治療により改善できる場合がありますが、八重歯の後ろにある4番目の歯の抜歯や、IPRで対応ができることもあります。

八重歯の抜歯が必要になった時には、その歯を未来の再生治療のために凍結保管しておくことも可能です。
様々な選択肢を検討し、いつまでもお口や全身の健康を維持していきましょう。