歯の神経(=歯髄)が死ぬと、多くのデメリットがあります。
歯がもろくなったり、黒っぽく変色してしまったりと、機能的にも審美的にもよくありません。
大切な歯を健康的に維持するためには、歯の神経を健康に保つことが大切です。
そこで今回は、歯の神経が死ぬ原因と後悔しないための対策についてご紹介します。
歯の神経が死ぬ 4つの原因とは?
歯の神経が死ぬ4つの原因についてご紹介します。
1 虫歯が神経まで広がった場合
虫歯は初期の段階では、歯の表面の硬いエナメル質にとどまっていますが、進行するとその内部の象牙質まで広がります。
その後、虫歯が悪化して神経まで達すると、細菌感染を起こして強い痛みを伴います。
(痛みは、歯の異常を知らせる危険信号であるため、歯にとって重要な機能です。)
しかし、更に症状が進行すると神経が死んでしまい、痛みを感じなくなってしまいます。その結果、気付かないうちに根の先に膿が溜まってしまうこともあります。
2 外傷や矯正治療で強い力が加わった場合
スポーツ中の事故や交通事故、矯正治療などで歯に強い力が加わった場合にも、歯の神経が死んでしまうことがあります。
歯に強い力がかかった直後は症状がなくても、数か月後に歯が黒ずんでくることで、異変に気付く場合もあります。
神経が死んでいると痛みを感じず、歯に栄養や酸素が供給できない状態になっています。
そのため、歯がもろくなり、新たな衝撃で歯が割れたり、欠けてしまう場合があります。
3 歯周病が進行した場合
歯周病の初期の症状は歯ぐきが腫れる、出血するなどの症状ですが、重症化すると顎の骨も溶かしてしまいます。
また、歯周病菌が歯の根の先端にも炎症を引き起こして、歯の神経が死んでしまうこともあります。
4 歯ぎしりや食いしばり
歯ぎしりや食いしばりを行うと、歯に強い力がかかります。
特に歯ぎしりは寝ている時に無意識に行っているため、体重以上の強い力がかかることもあります。
そして、歯ぎしりや食いしばりが習慣化すると、歯に負担がかかり、歯がすり減ったり欠けたりする場合があります。
その結果、その部分から細菌が感染して炎症を引き起こし、神経が死んでしまうことがあります。
歯の神経が死んだ時に起きる3つの症状
歯の神経が死んだ時に起きる3つの症状についてご紹介します。
歯の色が黒っぽく変色してみえる
歯の神経が死んでしまうと、血管から栄養や酸素を供給することが難しくなります。
その結果、歯の内部のタンパク質が変色(色素沈着)し、歯が灰色~黒色のように見えることがあります。
特に前歯の場合には、自他共に見られる機会が多いため、ほかの天然歯と色味が異なると、気になりやすいでしょう。
歯の痛みがなくなる
歯の神経には、歯にトラブルが起きた時に、知覚によって異常を伝える役割があります。
神経が死んでしまうと、痛みを感じなくなってしまうため、歯が細菌に汚染されるなどの異常事態が発生した場合でも、気づきにくくなります。
そのため、自身で歯の異常に気付いた時にはかなり悪化しており、抜歯せざるを得なくなっていた、というケースも少なくありません。
早期発見・早期治療のためには、定期的に検診を受けてお口の中を確認することが大切です。
歯の根の部分の歯ぐきが腫れる
歯の神経が死んでしまうと痛みなどの知覚を感じませんが、虫歯は内部で進行し続けていることがあります。
その結果、気付かないうちに細菌感染を起こし、歯の根の先端が腫れてしまうことがあります。
細菌に感染した部分が腐敗して根の先に膿がたまり、さらにこれが排出できず炎症を引き起こすことで、激しい痛みを伴うこともあります。
歯の神経が死ぬことによるリスク
歯の神経が死ぬことによる4つのリスクをご紹介します。
歯がもろくなる
歯の神経の内部には血管やリンパ管も含まれており、免疫細胞や栄養などを供給する働きがあります。
しかし、歯の神経が死んでしまうとこの機能が低下したり、ほとんど機能しなくなることもあります。
その結果、歯自体がもろくなってしまい、歯が欠けたり割れたりするリスクが高くなります。
感染のリスクが高まる
虫歯が歯の神経にまで達して、そのまま放置するとその神経は死んでしまいます。
神経が死ぬと痛みを感じなくなりますが、歯の内部では細菌感染が進行しています。
感染の範囲が広がると、歯の内部だけでなく根の先端まで炎症が広がることがあります。
神経が死んで痛みが消えた場合でも、根の先端に膿が溜まることで炎症が広がるため、早急な治療が必要となる場合があります。
後悔を防ぐための対策
歯の神経が死んで後悔しないためにできる対策をご紹介します。
毎日十分なセルフケアをする
神経が死んでしまう原因の多くは、虫歯が進行して神経に達することです。
虫歯を予防するためには、虫歯の原因になる歯垢をしっかりと除去することが重要となります。
そのために、毎日十分なセルフケアをしましょう。
歯ブラシだけでは、歯と歯の間など汚れが残りやすい部分に歯垢が残ってしまうため、「デンタルフロス」や「歯間ブラシ」を併用して細かい汚れを落としましょう。
また虫歯になるかどうかは、お口の中の「細菌(ミュータンス菌)」と「糖分」と「歯の質」の主に3つの要素が関係しています。
虫歯の原因1 細菌
細菌であるミュータンス菌は、歯垢の中で歯の表面に付着して、糖質から「酸」を作り出します。
この酸によって、歯のカルシウムやリンが溶け出して、虫歯が発生します。
虫歯の原因2 糖質
おやつやジュースなどに多く含まれている糖質は、細菌が酸を発生させる際に使われます。
そのため、頻繁に糖分を摂取する方は、歯が酸にさらされる時間が長くなるため、虫歯のリスクが高くなります。
虫歯の原因3 歯の質
歯が形成される際の環境や遺伝的要因によって、歯の質が強い方と弱い方がいます。
また、永久歯が生えたばかりの時期はまだ歯が成熟しておらず、歯の質が弱くなっています。
歯の質が弱い歯は、酸にさらされたときに虫歯になりやすい傾向にあるため、より注意が必要です。
定期的に検診を受ける
毎日セルフケアをしていても、自分で磨きにくい部分には汚れが残ってしまいがちです。
セルフケアだけでは落とし切れない汚れは、定期的な歯科検診でクリーニングをしましょう。
定期検診では、虫歯や歯周病の有無も確認するため、早期発見・早期治療が可能になり、お口の健康を維持しやすくなります。
マウスガードの使用
寝ている時の歯ぎしりは無意識なので、自分で改善することが難しくなります。
しかし、そのまま放置してしまうと、歯がすり減ったり、歯が欠けるリスクが高まってしまいます。
また、顎関節症のリスクも高くなるため、お口の型取りをしてマウスピースを作製しましょう。
寝る時に、歯ぎしり防止のマウスピースを装着すると、歯や顎の負担が軽減されます。
それでも歯の神経が死んだ場合にできること
歯の神経が死なないように予防しても神経が死んでしまった場合にできることをご紹介します。
歯髄再生治療
死んでしまった歯の神経(=歯髄)の機能を再生させる治療が、「歯髄再生治療」です。
虫歯や矯正治療、スポーツや事故などが原因で歯の神経が死んでしまっても、その歯の内部に「歯髄幹細胞」を移植することで、神経の再生を促します。
「歯髄幹細胞」は、健康な歯の神経内に存在し、新しい歯の神経や血管をつくり出しています。
この「歯髄幹細胞」は、治療で抜歯する健康な歯(乳歯や親知らず、矯正治療で抜く歯など)から採取することができ、細胞培養を行うことで数を増やすことができます。
「歯髄幹細胞」を用いて歯髄再生治療を行うと、歯の神経や血管、リンパ管などが集まった組織である「歯髄」が再生され、栄養や酸素の供給再開が期待されます。
また、歯の感覚などの回復などが見込めるほか、歯髄が持つ「象牙質修復・再形成」の機能も再生されるため、歯の寿命を延ばすことにつながります。
【関連記事】歯髄再生治療とは?メリットやデメリットを解説します
歯髄再生治療が適用になる例
歯髄再生治療が適用になる歯の例をご紹介します。
(※実際に治療が可能かどうかの判断については、歯髄再生治療を実施する歯科医院にご相談ください。)
抜髄歯
虫歯が神経にまで広がって、歯の神経を抜くことになってしまった歯は、歯髄再生治療の対象になります。
また、すでに抜髄しており、人工物を充填している歯であっても、人工物を取り除き、歯の根を洗浄・消毒することで、歯髄再生治療が適用できる可能性もあります。
外傷歯
転んだ時やスポーツなどで歯を強くぶつけて、歯の神経が死んでしまった歯も、歯髄再生治療の対象になります。
感染根管歯
死んでしまった神経を抜髄せずに放置したり、抜髄治療後に歯の内部に細菌が侵入した場合、歯の根(根管)の内部で細菌感染が進行し、「感染根管歯」となることがあります。
感染根管歯は、内部で大量の細菌が増殖しているため、治療の難易度は高まりますが、歯の根の内部を洗浄・消毒して菌が検出されない状態にすることができれば、歯髄再生治療が適用できる可能性もあります。
【まとめ】
歯の神経である歯髄には、神経のほかに血管やリンパ管も含まれており、栄養や酸素の供給も行っています。
神経を失った歯はもろくなる傾向があり、歯が欠けたり、割れたりするリスクが高まります。
そのため、歯を健康的に維持するためには、歯の神経を健康に保つことが不可欠です。
しかし、虫歯が広がったり、外傷を負うことなどが原因で、神経が死んでしまうことがあります。
その場合でも、「歯髄再生治療」を行うことで、歯の神経の機能が回復し、栄養や酸素の供給再開や、象牙質の再形成も期待できます。
いつまでもご自分の歯を健康に維持するために、毎日のセルフケアや歯科医院での健診など、複合的な対策を行っていきましょう。