歯髄再生治療は、失われた歯の歯髄(いわゆる神経)を復活させ、健康的な歯を取り戻すのに有効な手段です。本記事では、今後ますます普及していくことが予想される歯髄再生治療のメリット・デメリットについて解説します。
歯髄再生治療とは?
歯髄再生治療とは、失われた歯髄(歯の内部の、神経と血管を含む組織)を蘇らせる治療です。
親知らずや乳歯から歯髄幹細胞を採取して増やし、失活歯(歯髄が失われた歯)に移植することで歯髄・象牙質を再生させます。
国内では、アエラスバイオ株式会社が歯髄・象牙質再生技術を確立し、RD歯科クリニック(歯髄再生治療専門クリニック)と連携し、実用化に成功しています。
引用:日本歯科新聞「歯髄・象牙質再生治療が実用化/アエラスバイオの連携医院で」
歯髄再生治療では、虫歯や外傷などで損傷を受けた歯の歯髄を除去し、内部に歯髄幹細胞を薬剤とともに移植することにより歯髄の再生を促します。
従来の治療では、虫歯が進行した歯に対しては、歯髄除去(抜髄)後、空洞部はガッタパーチャやセメントなどの人工物を詰めてきました(根管充填)。
しかしながら、歯髄を除去すると水分・栄養供給が止まるため歯が脆くなり、強い力に対する歯髄組織の緩衝作用もなくなるため、将来的に破折するリスクが増加します。
また、歯が変色してしまうデメリットもあります。さらに、人工物の隙間からお口の中の細菌が侵入して根の下に炎症が広がり膿がたまる病気(根尖性歯周炎、感染根管)になる可能性があります。その際、感染根管治療と言われる、人工物をはずして根の中の除菌を行い(根管治療)、再び根管充填を行います。
しかしながら、一旦根の下に細菌が潜むと、完全に除菌することが難しく、体の免疫力がなくなると咬んで痛い、歯茎が腫れるなどの症状が繰り返し現れるようになり、やがては抜歯せざるを得なくなることもあります。このように、人工物による根管充填法には歯を長持ちさせる上で問題が指摘されてきました。
しかし現在は、人工物充填に代わって、「細胞移植による歯髄再生治療により歯髄・象牙質を再生させ、破折や抜歯を防ぐ」、という選択が可能となっています。
歯髄の役割が失われたとき(抜髄)のリスク
歯の血管と神経を含む歯髄は、歯に水分・栄養を送ったり、痛みを感じさせたりする役割があるほか、虫歯の進行を抑えることにおいても重要な機能を果たします。こういった歯髄の役割が失われると、以下のリスクが増加するおそれがあります。
- 虫歯などの症状が進行しやすくなる
- 歯が割れやすくなる
- 歯の見た目が悪くなる
- 痛みを伴う症状に気づきにくくなる
- 歯の根に膿がたまりやすくなる
このように、歯髄を失うとさまざまなリスクが起こり得るため、もし歯髄を除去した場合は定期的に歯科医院を受診し、メンテナンスしてもらうことが大切です。
虫歯などの症状が進行しやすくなる
歯髄が失われた歯は、歯髄が本来持つ細菌抵抗力、免疫調整力を喪失しているため、虫歯菌の増殖を抑える機能が低下し、虫歯にかかりやすくなります。
また、根の中、さらに根の下にまで細菌が侵入して症状が進行しやすくなるおそれがあります。
歯が割れやすくなる
歯髄は神経だけでなく血管も多く含む組織であり、歯に水分・栄養を送る重要な役割をもちます。
そのため、歯髄が失われた場合、歯への水分・栄養供給が止まってしまいます。その結果、歯が脆くなり割れやすく、根が折れやすくなる、歯の寿命が短くなる、といったリスクが高まります。
歯の見た目が悪くなる
歯髄には、歯の色を白く保つ働きもあります。
歯髄には血管が通っているため、歯髄を除去することで血液が循環しなくなり、歯が変色するおそれがあります。
痛みを伴う症状に気づきにくくなる
歯髄がなくなると、歯の神経機能が失われて痛みを伴う症状に気づきにくくなるため、虫歯や根尖性歯周炎の発見が遅れてしまうおそれがあります。
知らないうちに根の下に炎症が生じ、骨が溶け、膿がたまる症状がどんどん悪化する可能性があるため、歯髄を取った後は 半年に一度は定期検診を受けることをおすすめします。
歯の根に膿がたまりやすくなる
歯髄を除去した後は、通常人工物が詰められます。詰め物が不完全な場合は細菌が侵入し、歯の根に膿が溜まることがあります。
また、残留していた細菌が原因で膿が生じることもあります。
歯髄再生治療のメリット
歯髄が失われた場合、さまざまなデメリットによる健康被害が予想されます。
歯髄再生治療を行い、歯髄を再生することで得られる主なメリットは以下のとおりです。
- 歯が長持ちしやすい
- 疾患の悪化を防止しやすくなる
つまり、歯髄再生治療を行うことで、虫歯や根尖性歯周炎を予防でき、健康的な歯を維持しやすくなるといえます。
歯が長持ちしやすい
歯髄幹細胞を移植した歯では、再生治療前に歯医者で削った根管部分も、細胞の働きでもとに戻る(もともと歯髄があった場所は歯髄が、象牙質があった場所は象牙質が再生される)ことが示されており、物理的強度が高まることが期待されます。
また、前述したように、歯髄は水分・栄養を届けてくれる重要な役割を担っています。
水分・栄養が行き届いた歯は割れにくく、虫歯や歯髄炎、根尖性歯周炎になりにくいため、長持ちしやすくなります。
疾患の悪化を防止しやすくなる
歯の神経がない場合、痛みを感じられなくなります。
そのため、虫歯になっていても気づかずに放置してしまい、重症化するケースがあります。
歯髄があれば、神経の感覚機能が備わっているため、痛みなどをきっかけに早期発見できる可能性が高まるでしょう。
歯髄再生治療のデメリット
歯髄再生治療を検討する際は、以下のデメリットについてもきちんと把握しておきましょう。
- 治療に時間を要する
- 治療費が高額
- 治療できる場所が限られる
歯髄再生治療は時間を要するため、スケジュールを立てて臨む必要があります。
また、治療費が高額であるため、予算を確保した上で治療を検討しましょう。
治療に時間を要する
歯髄再生治療は時間がかかります。
抜歯した歯は、歯科医院が委託している特定細胞加工物製造事業者のアエラスバイオ株式会社に送られ、歯髄幹細胞を採取し、移植に十分な数まで増やし、品質や安全性の試験結果が出るまで約1ヶ月かかります。移植後も、歯髄が再生されさらに歯髄を覆う象牙質が再生されるまで、約6〜12ヶ月の時間を要します。
また、将来の治療に備えて、あらかじめ歯髄幹細胞を培養して保管できるバンク保管サービスの利用も可能です。バンク保管サービスについては、下記リンクをご覧ください。
バンク保管サービスについて » 抜ける歯で未来を彩る|アエラスバイオ株式会社 (aerasbio.co.jp)
歯髄の再生が完了したあとも、状態を確認して被せ物を作る必要があるため、人によっては1年以上の時間を要することもあります。
治療費が高額
歯髄再生治療は、自費診療扱いとなり、実際にかかる費用の目安は以下の通りです。
- 前歯:約50〜70万円
- 小臼歯:約60〜90万円
- 大臼歯:約80〜100万円
奥歯の方になるほど根の本数が多くなるため、費用が高くなります。また、歯によってはMRI検査の費用が別途発生する可能性があります。
治療を始める前のカウンセリングの段階で、費用の目安を聞いておくと良いでしょう。
治療できる場所が限られる
歯髄再生治療は、特殊な設備や高度な技術を必要とします。したがって、国の再生医療の法律に則り、特定認定再生医療等委員会において再生医療等提供計画の審査に合格し、厚生労働省に提供計画を届け出て受理された歯科医院でしか治療ができません。
現状、上記の条件を満たす歯科医院は少なく、限られた場所でしか歯髄再生治療が受けれないのがデメリットです。
歯髄再生治療の流れ
歯髄再生治療を行う流れは以下の通りです。
- カウンセリング:歯髄再生治療について説明を受けます。口腔内診査および必要に応じてレントゲン検査を受けます。
- 精密検査:問診により、歯髄再生治療を受ける上で全身健康状態に問題がないか確認されます。ウィルス等の全身の感染症の有無も確認されます。
- 局所検査および歯科用CT検査により、歯の状態がさらに詳細に検査され、歯髄再生治療を受ける事に問題がないか検討されます。
- 治療計画書:厚生労働省に提出された同意書をもとに、治療に関して十分に理解できるよう説明を受けます。
- 同意書にサイン:治療に同意したら、同意書にサインをします。
- 不用な歯を抜歯:親知らずなどを抜歯し、抜歯した歯から歯髄幹細胞が採取、培養されます。
- 移植:根管内を清掃して無菌状態になったところで、歯髄幹細胞が根の中に移植されます。
- 経過観察:電気刺激あるいは冷温刺激に対する歯の神経の反応をみながら、歯髄が再生されてくるのを待ちます。
- 治療完了:状態が良ければ、詰め物や被せ物をして治療終了です。
まとめ
歯髄がない状態を放置すると、虫歯や根尖性歯周炎のリスクが高まったり、歯が脆くなって割れたり折れやすくなったりします。
歯髄再生治療は、その歯髄を再生させることで、歯の健康状態を維持するための治療です。
治療費は高額であり、治療に時間を要するものの、疾患の悪化を防止し、歯を長持ちさせるために役立ちます。
虫歯が進行して神経がないなど、歯のトラブルを抱えている方は一度、歯髄再生治療を検討してみてはいかがでしょうか。