歯がぐらぐらする原因の1つは脱臼(歯を骨につけて支えているクッション(歯根膜)が断裂して、埋まっている骨から歯が飛び出すこと)です。不完全脱臼の場合はぐらつくだけで留まりますが、ひどい外傷など(歯をぶつけたりころんだりして強い力が加わること)により完全脱臼になると、歯が抜け落ちるリスクがあります。
歯が抜け落ちた場合、速やかに歯科医院を受診できれば再植できる可能性があります。
歯が脱臼して歯が抜け落ちた場合は、歯を乾燥させない方法で保管し、速やかに歯科医院を受診しましょう。
歯が脱臼する原因
歯が脱臼する原因として多いのが、硬いものを食べたり、外傷を受けたりして、歯ぐきの中で歯が折れることです。早急に処置しなければならないため、速やかに歯科医院を受診しましょう。
一方で、外傷などを受けていないにもかかわらず、歯がぐらぐらする場合は、重度の歯周病になっているおそれがあります。
こちらも歯が抜け落ちる前に、速やかに歯科医院を受診してください。
歯を脱臼したときの治療法は亜脱臼か、完全脱臼かで異なります。
- 不完全(亜)脱臼
- 完全脱臼
亜脱臼・完全脱臼のいずれの場合においても、歯がぐらついたり、抜け落ちた場合は、速やかに歯科医院を受診しましょう。
不完全(亜)脱臼
亜脱臼とは、歯根膜が一部断裂することにより歯の位置がずれるなどして歯が大きくぐらついている状態すぱです。治療としては、元の位置に戻して、ぐらついている歯の両隣の歯にワイヤーやプラスチックなどで接着し、2〜3週間の間、歯を固定する必要があります。
固定することで、ぐらついている歯の断裂した歯根膜が回復して、歯の周りの炎症が回復していきます。固定期間中は、口内を清潔に保ち、歯を安静にしておかなければなりません。
強い力を加えないように注意しながら、柔らかい歯ブラシや細い歯間ブラシを利用し、歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目、及び固定している装置の部分を丁寧に磨きましょう。
完全脱臼
完全脱臼とは、歯が完全に抜けて歯根膜が完全に断裂した状態です。
抜け落ちた歯の歯根膜の状態が良い状態であれば、元の場所に再植し、歯の機能(咬む機能)を回復させることが可能です。
一方で、抜け落ちた歯が長時間放置され、乾燥した状態や細菌が感染した場合、再植が難しい場合があります。万が一、完全脱臼して歯が抜け落ちた場合は、速やかに歯科医院を受診してください。
歯が脱臼したときの対処法
歯が脱臼したときに大切なことは、歯を乾燥させない方法(保存液中に浸す)で保管し、速やかに歯科医院を受診することです。
歯が抜け落ちた後、数十分以内であれば歯根膜が生きているため、再植できる可能性が高まります。
一方で、歯が抜け落ちてからそのままの状態で1時間以上経過すると、歯根膜の細胞が死んでしまい、再植が難しくなります。
歯が抜け落ちた後は、できるだけ早く適切な保存液(※)で歯を洗浄し、歯を乾燥させないように保存液に浸して保管しながら歯科医院を受診しましょう。
※歯の保存液は、歯根膜を保護し、再植の成功率を高める目的で使用します。
歯根膜にいる細胞の内部の浸透圧が異なる(等張でない)水では絶対に保管しないで下さい。
以下の保存液が使用できます。①や②は薬局で購入できますので、いざという時のためにあらかじめ購入して、薬箱に入れておくと良いでしょう。①や②がない場合は➂でまずは代用しましょう。
① ティースキーパー「ネオ」: 歯専用の保存溶液で、最も良好な保存効果を示すものとされています。
② 生理食塩水(等張食塩液): 脱臼した歯の保存液として長く使用されてきた塩化ナトリウム0.9%を含む電解質溶液です。
➂ 牛乳: 牛乳は生理的範囲内の浸透圧を有し、歯根膜を保護するのに適しています。
適切な保存方法:
歯が抜けたら、以下の手順で保存してください:
1. 歯の根っこの部分を触らないように注意して拾います。
2. 歯が汚れている場合は、歯の保存液をきれいな容器に入れて、その中で歯を軽くふって洗います。保存液がない場合は、水道水の流水下で5秒程度すすぎます(長くても10秒以内)が、水の中には絶対保管しないで下さい。ネオや生理食塩水などの保存液がない場合は牛乳で代用して下さい。
3. 2の歯の保存液を新しく変えて、その中に歯を漬けなおします。乾燥させないことが重要です。
4. 再植固定まで数時間以内が目安です。なるべく早く歯科医を受診しましょう。
歯をぶつけて脱臼以外に起こりうる症状
歯をぶつけた際に起こりうる、脱臼以外の症状は以下の通りです。
- 歯髄壊死、根尖病変(神経が死んで、根っこの下が膿む)
- 歯が完成できない (根っこが未完成の場合)
- 打撲
- 破折
- 骨折(顎の骨が折れる)
- 変色
- 歯根吸収、骨癒着(アンキローシス)
歯髄壊死、根尖病変
症状によっては、安静にしておくことで改善する場合がありますが、神経にまで影響が出ている(炎症や感染が及んでいる)場合、神経が死んで(歯髄壊死)、根っこの下が膿む(根尖病変)場合があります。その際は、神経を取り除く(抜髄(ばつずい))あるいは根っこの治療(根管治療)を行うなどの処置が必要になります。
歯が完成できない(根っこが未完成の場合)
根っこが完成していない幼若な歯(根未完成幼若永久歯)の場合に、神経を失ってしまうと、根っこが短くて先が開き、歯は薄いまま、未完成状態となります。つまり、歯が完成する(根っこが長く太く先が閉じて丈夫になる)ことができなくなります。したがって、歯は折れやすく、抜けやすく、歯の寿命が短くなる可能性があります。
打撲
一時的に歯根膜に炎症が起きた場合の状態です。歯のぐらつきはほとんどなく、歯周組織(歯根膜、骨)の損傷も軽微です。
数日〜2週間程度、安静にしていると改善するとされています。
破折
歯が欠けている状態です。少ししか欠けていない場合は、プラスチック(レジン)で修復可能です。一方で、大きく欠けて細菌が侵入し、それが神経まで到達している場合は、神経を取り除く必要があります。
骨折(顎の骨が折れる)
歯を脱臼した際、外傷のレベルによっては歯を支える骨が骨折してしまう場合があります。特に歯ぐきに痛みを感じたり、出血や頭痛が起こったりした場合は、顎の骨が折れているおそれがあるため、速やかに歯科医院を受診しましょう。
変色
外傷を受けると、神経が充血し、変色します。数週間後に変色してくる場合は、神経が死んでいる可能性があるため、抜髄(神経を取り除く処置)をしなければならないことが多いです。しかしながら、感染がなければ、年齢や外傷の程度によっては、再度神経が戻る可能性もありますので、しばらく適切な治療により経過をみる場合もあります。
歯根吸収、骨癒着(アンキローシス)
外傷を受け、歯根膜の傷害がひどい場合には、脱臼した歯を再植した後、あるいは不完全脱臼した歯を元の位置に戻しても、歯根膜の炎症が治まらず、あるいは感染が広がり、根っこが吸収される場合があります。また、歯根膜ができずに根っこの一部が骨と直接的にくっつく(骨性癒着、アンキローシス)が生じる場合があります。これにより、歯の寿命が短くなる可能性もあります。
歯の外傷に関するよくある質問
歯の外傷に関してよくある質問をまとめました。小さなお子さまがいるご家族の方は、以下内容を把握し、有事の際にご活用ください。
- 歯が一部欠けた場合は元通りになる?
- 乳歯の外傷は永久歯に影響がある?
- 歯の色が変わってきた原因は?
- 歯を飲み込んでしまった場合はどうしたらよい?
歯の外傷の程度によって、治療の可否が変わります。歯科医師に相談の上、適切な治療を受けましょう。
歯が一部欠けた場合は元通りになる?
欠けた部分が歯の神経にまで達していない場合は、もと通りにできる可能性があります。一方で、歯の神経まで影響が及ぶ場合、抜髄後に被せ物などで治療する必要があります。ただし、根っこの下の神経の一部が健康な状態で残っている場合、生活歯髄切断法や覆髄により、神経が戻る場合もあります。神経を一挙にとるのではなく、経過をみながら、最適な治療していくこともあります。
乳歯の外傷は永久歯に影響が出ますか?
外傷の程度によっては、永久歯が変形したり、変色したりする可能性があります。外傷を受けた場合は、永久歯への影響を最小限にするため、速やかに歯科医院を受診しましょう。
歯の色が変わってきた原因は?
転倒などで歯を強く打つと、歯の色が変色する場合があります。特に歯の色が黒ずむ場合、歯の神経が死んでいるおそれがあるため、抜髄する必要があります。
歯を飲み込んでしまった場合はどうしたらよい?
歯を飲み込んでしまっても無害のため、心配ありません。
歯の脱臼で神経を失ってしまったら歯髄(しずい)再生治療を
歯の脱臼によって失った神経は、歯髄(しずい)再生治療によって再生できるケースがあります。
歯髄再生治療とは、歯の歯髄から取り出し増やした幹細胞を、根っこの中に移植することにより、失った歯の歯髄(神経)を再生させる、世界初の最先端治療です。
特に、根っこが完成していない歯に対して歯髄再生治療を行うと、神経を戻すばかりでなく、丈夫な正常の健康な歯に完成させることができます。
この治療を受けるためには、不用歯(乳歯や親知らず、矯正治療等で抜歯した歯)から生きた歯髄(神経)を取り出す必要があります。
神経が死んでしまった歯からは培養できないため、注意が必要です。
アエラスバイオ株式会社では、将来の歯髄再生治療に備える「歯の組織バンク」と「歯髄幹細胞(しずいかんさいぼう)バンク」という2つのサービスを展開しています。
歯の組織バンクは税込29,700円(5年保管、延長可能)、歯髄幹細胞バンクは税込330,000円(10年保管、延長可能)で利用可能です。
※歯の組織バンクの場合、歯から取り出した歯髄を預けておき、将来、歯髄再生治療を行う際に幹細胞を歯髄から取り出して増やし、その残った細胞を歯髄幹細胞バンクに保管することができます。
不用の歯をバンク保管しておくことで、いざ歯の神経がなくなった場合にはすぐに歯髄再生治療を行って神経を甦らせることができますので、「いつ歯が抜けてしまうのか」と怯える毎日から解放されるでしょう。
未来の自分、家族のためにバンク保管を検討してみてください。
バンクとは » 抜ける歯で未来を彩る|アエラスバイオ株式会社
まとめ
歯が脱臼した場合、怪我の程度にかかわらず、速やかに歯科医院を受診してください。もし、歯が抜け落ちた状態を放置してしまうと、再植できなくなります。
一方で、歯が抜け落ちたとしても、すぐに歯科医院を受診できれば、再植できる可能性がでてきます。
大事な歯を守るためにも、転倒などして歯をぶつけて脱臼した場合は、速やかに歯科医院を受診しましょう。