抜いて捨ててしまうことが多い親知らずですが、どのような活用方法が存在するか、ご存知でしょうか?

現在は、「親知らずの歯牙移植」と「歯髄再生治療」の2つの治療に活用することが可能です。
医科の分野で、移植を伴う外科手術が行われているように、歯科の分野でも、抜いた歯を別の部位に歯牙移植することが可能な場合があります。

また、抜いた親知らずに含まれる「歯髄幹細胞」を活用することで、失われた歯の神経(歯髄)を再生させる治療も実用化されています。
今回は、親知らずの移植と歯髄再生治療について詳しくご紹介します。

歯の移植とは?親知らずは移植できる?

歯の移植とは、抜歯した歯を別の新しい場所で歯として機能させる治療法です。

一般的に、歯を失った場合の治療は、インプラント・ブリッジ・入れ歯の3つから選択されることが多いですが、4つ目の選択肢として「歯牙移植」が存在します。

移植に使う歯は、ドナー歯と呼ばれ、通常は親知らずや、嚙み合わせに関与していない歯が用いられます。つまり、親知らずが残っている方は、将来的に歯を失ったときに、親知らずを歯牙移植に用いることができる可能性があります。

歯の移植ができる条件

歯の移植を成功させるための、移植する歯(抜く歯)の3つの条件をご紹介します。

歯周病のない健康な歯であること

移植した歯が定着するためには、移植する歯の根の周りにある「歯根膜」の存在が重要です。「歯根膜」は、移植する歯と移植する土台部分(歯周組織)を接着させる働きを持ちます。しかし、歯周病にかかっている歯は、歯周病菌に侵されているため、歯根膜が減少しており、接着能力が著しく低下しています。そのため、移植する歯は歯周病にかかっていないことが大切です。

根の形が単純な形態であること

歯の大きさや形態は、前歯と奥歯では大きく異なります。
歯の根が真っすぐな方が、抜歯をする時や移植をする時にスムーズに治療しやすいため、移植する歯の形状はシンプルなものが好ましいです。

・歯が骨と癒着していないこと

顎の骨と移植用の歯が癒着していると、歯を抜く際に歯根膜が傷つく場合があり、移植した後の歯の定着率が落ちてしまう可能性があります。
そのため、骨との癒着がなく、歯根膜と一緒に抜歯ができる状態の歯が好ましいです。

歯の移植のメリット

歯の移植の3つのメリットをご紹介します。

ほかの歯を削る必要がない

歯を失った時の治療の1つである「ブリッジ」は固定式の治療で、保険適用ができますが、失った歯の両隣にある歯を大きく削る必要があります。
また、3本分の負担を2本の歯で支えるため、削った歯に負担がかかりやすくなります。
一方、移植した歯は、抜歯した部分以外に負担をかけることがなく、歯を削る必要がありません。

歯根膜を活かして噛む衝撃を和らげることができる

歯根膜は歯と歯周組織の間にあり、噛む時に衝撃を和らげるクッションの役割を果たします。また、食事の際に重要な噛み心地を生み出しています。
インプラントは天然歯に近い噛み心地を実感できると言われていますが、歯根膜が存在しないため、天然歯と比べると噛み心地を感じることはできず、噛んだ衝撃が顎の骨にダイレクトに伝わってしまいます。
一方、移植した歯であれば、歯根膜を残すことできるため、顎の骨への負担を軽減することができます。

移植した後も矯正治療が可能

インプラント治療は、インプラント体を顎の骨に定着させる治療のため、治療後に動かすことができません。
インプラントの本数や場所によっては矯正治療が適用になる場合もありますが、多くのインプラントが入っている場合は、矯正治療が難しいケースが多いでしょう。

移植した歯は、治療後も歯を動かすことができるため、より自由度が高い矯正治療を行うことができます。

歯の移植のデメリット

歯の移植の2つのデメリットをご紹介します。

技術的にインプラントより難しい

移植する歯の根の形態や歯根膜の状態などが関係するため、成功させるには様々な条件をクリアする必要があり、難易度が高い治療です。そのため、歯科医師の技術力が如実に現れる治療の1つです。

移植する場所に十分量の骨が必要

顎の骨は加齢や歯周病などで徐々に減少する傾向があります。
特に、歯周病が悪化すると、歯周組織に炎症が及んで顎の骨が減少していきます。
歯の移植を行うためには、移植するドナー歯が定着するための十分な骨の幅と厚みが必要になります。

歯の移植が失敗する原因

歯の移植が失敗する4つの原因をご紹介します。

日頃のケアができていない

磨き残しの汚れが残っていると、細菌が繁殖して炎症が引き起こされます。
移植部位に炎症が起こっていると、移植した歯が定着しない可能性が高まります。
また、細菌の影響で歯周病が悪化すると、顎の骨を溶かして移植した歯がグラグラしてしまうこともあります。
移植を成功させるためには、日頃からのケアがきちんとできることが大切です。

根管治療ができていない・不十分

移植をするドナー歯は、抜歯の際に一度歯茎から離れ、歯茎とつながっていた内部の歯の神経が切断されます。
そのため、ドナー歯の移植後も、ドナー歯内に残っている歯の神経をそのままの状態にしていると壊死してしまい、歯の根の中で感染が拡大する恐れがあります。
ドナー歯の中で感染が拡大すると、移植の失敗率が高くなってしまうため、移植してから2週間以内にドナー歯の根管治療を行い、内部の神経を綺麗に除去する必要があります。

固定が不十分

移植した歯は、定着を待つ間固定して安静にしている必要があります。
固定する期間は、移植する歯の状況にもよりますが、1ヶ月程度が目安となります。
しっかり固定できていないと、歯周組織に定着しないため、移植の失敗につながりやすくなります。

ドナー歯が歯茎にきちんとついていない

移植するドナー歯と、移植部位の歯茎の形状がうまく噛みあうことで、ドナー歯の歯根膜が定着しやすくなります。歯根膜が定着することで、周囲の歯周組織の再生も促進されるため、ドナー歯と歯茎がきちんとついていないと、歯周組織が再生しづらくなり、歯牙移植の失敗につながる可能性が高まります。

歯の移植は保険適用ができる?

歯の移植は条件が合えば、保険適用ができます。
ただし、保険適用になる場合は、移植をするドナー歯が親知らずもしくは埋伏歯(かみ合わせに関係ない埋まっている歯)に限定されます。

また、移植が行われる部位ですでに抜歯が行われており、歯がない状態になっている場合は保険適用にならず、自由診療の対象となります。
そのほか、ドナー歯と移植する部分のサイズが合っていることも条件となるため、保険適用にならない場合も多く、その場合は自由診療を選択するか、インプラント・ブリッジ・入れ歯などの治療を勧められるケースが多いでしょう。

歯の移植の流れ

歯の移植の大まかな流れは、以下の通りです。

STEP1 クリーニングと消毒
口の中の細菌を減らすため、クリーニングと消毒を行います。

STEP2 表面麻酔と局所麻酔
麻酔の時の針の痛みを和らげるために、表面麻酔をしてから局所麻酔を行います。

STEP3 移植予定の場所の剥離・移植
移植する部分の骨をドリルで削り、移植するドナー歯のスペースを作ります。

STEP4 親知らずの抜歯
親知らずの抜歯をする時は、歯を傷つけない様に抜歯します。
歯根膜が残っていることが重要なため、歯に負担がかからないようにします。

STEP5 移植した親知らずの固定
移植したばかりの歯は、定着していないため、周りの歯に固定します。

親知らずの移植した歯にできる治療

親知らずの移植をした歯を更に長持ちさせる方法として、「歯髄再生治療」があります。

歯髄再生治療

歯髄再生治療とは、乳歯や親知らず、矯正などで抜歯を行った歯の中にある「歯髄幹細胞」を活用して、歯髄を失った歯の歯髄を再生させる治療法です。

歯髄を再生させることで、歯に再び栄養や水分を供給できるようになり、歯の変色の進行や破折(歯が折れること)を防ぐことが期待できます。
また、痛みの感覚を取り戻すことができるため、歯のトラブルにも早期に気づくことができ、虫歯の進行による抜歯を防ぐことにもつながります。

楽しくわかる歯髄と歯髄再生治療

すぐに歯髄再生治療をする必要がない時にできること

親知らずの抜歯が必要になった場合でも、すぐに歯髄再生治療を行わない場合も多いでしょう。
その場合には、抜歯した歯の中から歯髄幹細胞を取り出して、凍結保管しておくことで、若い親知らずの細胞を半永久的に保管することができます。
アエラスバイオ株式会社のバンクサービスで保管した歯髄幹細胞は、将来的に歯髄再生治療が必要となった際に、必要な量だけ増やして使うことが可能です。

また、親知らずから採取した歯髄幹細胞は、歯髄再生治療だけでなく、脳梗塞やアルツハイマー、脊髄損傷や顎骨再生など、様々な治療に用いるための研究が進められており、凍結保管しておくことで、将来のご自身やご家族を救う鍵になる可能性を秘めています。

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【まとめ】

親知らずの活用方法として、歯の移植と歯髄再生治療があります。

歯の移植は、親知らずの周りの骨の状態や移植する部分のサイズと親知らずのサイズが合っていることなど、いくつかの条件が揃えば治療が可能です。

ただし、移植の適用要件に当てはまらなかったり、保険適用が出来なかったりなど、様々な要因から手術が困難なケースもあります。

また、抜いてしまう親知らずには、神経や血管の再生能力に優れた「歯髄幹細胞」が含まれており、これを歯髄再生治療に活用することが可能です。
歯髄再生治療により、失った歯髄の再生が促されるため、知覚が戻ったり、歯に栄養や水分を再び供給できることで、歯の寿命を伸ばすことに繋がるでしょう。

すぐに歯髄再生治療が必要ない場合でも、歯髄幹細胞を凍結保管しておくことで、親知らずを将来の再生医療に役立てることができます。