虫歯が神経まで達した時や外傷で神経が壊死した時には、歯の神経を除去して歯の根の中を洗浄する「根管治療」が必要となります。
歯の根の形態は複雑で湾曲している場合が多いため、歯の根の中で細菌感染などのトラブルが生じないようにするためには、精密な根管治療が求められます。
この根管治療においては、保険診療と自費診療の2つの選択肢があり、それぞれメリット・デメリットがあります。

今回は、根管治療の保険診療と自費診療の違いについてご紹介します。

根管治療とは

根管とは歯の根の中にある細い管状の部分で、神経や血管が通っています。
しかし、虫歯が悪化して神経まで細菌感染が進んだ場合や、外傷により歯に強い力が加わった際、歯の神経が傷ついてしまうことがあります。
虫歯が神経まで達して傷つくと、ズキズキとした強い痛みを伴うことがあり、また、神経が壊死すると歯の根の先にまで炎症が拡大することもあります。
このような場合に症状の悪化を防ぐため、根管治療を実施して、根管内の細菌感染部分や壊死した組織を取り除き、洗浄・消毒して再感染を防ぎます。

全額自己負担の自費診療と保険適用ができる保険診療

歯科の治療は、全額自己負担の「自費診療」と、費用の負担を抑えられる「保険診療」があります。

保険診療は、自己負担額を抑えて治療を受けることができるメリットがありますが、全ての治療が保険適用となっているわけではありません。また、保険適用となっている治療はすべて、医療費が「保険点数」によって全国一律で定められていますが、保険点数が低く設定されている治療ほど、各医院で治療にかけられる時間や手間、コストが制限されてしまいます。

一方、自費診療に関しては、歯医者ごとに費用を設定できるため、十分な時間とより良い材料の中から治療を選択することができます。
ただし、全額自己負担のため費用は高くなります。

それぞれに特徴があるため、歯科医師ともよく相談し、どちらの治療が良いか比較して治療方法を選択することが大切です。

保険診療のメリット

保険診療のメリットについてご紹介します。

・費用を抑えることができる

保険診療は、健康保険を使うことができるため、負担金は1〜3割の負担で治療を受けることができます。
また、治療費用は点数で細かく決められているため、全国のどの歯医者で治療をしても同じ費用で治療を受けることが可能です。

・どこの歯科医院でも同じ治療を受けることができる

保険診療は、治療の手順や使用できる材料まで細かく決められているため、全国のどの歯医者で治療を受けても同じ治療が受けることができます。

保険診療のデメリット

保険診療のデメリットについてご紹介します。

・治療回数・使う材料に制限がある

保険診療は、治療の過程や使用できる材料が細かく決まっています。
そのため、耐久性に優れていたり、機能面だけでなく審美性にも優れた材料は使えないことが多々あるでしょう。 また、保険点数によって医療費が全国一律で定められているため、医院側も治療にかけられる時間に制限が生じます。
特に「根管治療」の場合、歯の状態によって治療の難易度が大きく異なりますが、日本では一律で低めの保険点数が設定されています。そのため、どうしても各医院が根管治療に時間や手間をかけにくい環境になっているのが現状です。
また、治療1回あたりの時間や治療範囲が細かくなりがちなため、頻繁に治療に通わなければいけないこともあります。

・よりよい治療が受けられない可能性がある

保険診療は、痛みを取る、噛めるようにするといった最低限の機能面の回復を目的とします。
そのため、歯の審美性を高める目的で行われる治療は、多くの場合保険適用されず、自費診療の範囲となります。

自費診療のメリット

自費診療のメリットについてご紹介します。

・患者様に合ったより良い治療を受けることができる

自費診療は、治療に制限がないため、個々人のお口の状態に応じてより良い治療を選択することができます。
歯科の治療は日々進化しているため、最新の治療も選ぶことも可能です。

・高機能な材料を使用することができる

高機能な材料も使用して治療を受けることが可能です。
機能面や精密な治療を行うためには、より良い材料を選択することが大切です。

・必要な治療時間を確保してもらえる

どんな治療であっても、精密な治療をするためには、治療に時間をかける必要があります。
根管治療の場合、保険診療では、各歯科医院で1回あたり30分程度しか時間をかけられないため、何度も歯科医院に通う必要が生じます。
一方自費診療は長めの時間をかけられ、個々人に合わせて必要な治療を受けることができるため、通院の負担を減らすことも可能です。

自費診療のデメリット

自費診療にもデメリットがありますので、ご紹介します。

・全額自己負担のため治療費が高い

自費診療は、健康保険が適用にならないため、全ての費用を自己負担する必要があります。
そのため、保険適用の治療と比較すると治療費用が高くなります。

・歯科医院ごとに治療費が異なる

自費診療は、各歯科医院で自由に費用を設定することができるため、歯科医院ごとに費用が異なります。
しかし、歯科医院によって設備や使用している機械も違い、歯科医師の技術や経験も異なるため、単純に比較することも困難です。自分でよく調べて治療を受ける医院を決める必要があります。

保険の根管治療と自費の根管治療の違い

歯の被せ物の場合、審美性に劣る銀歯の被せ物は保険適用となりますが、審美性の高いセラミックの被せ物は自費診療です。
同様に、根管治療も保険診療と自費診療では違いがあります。

保険適用の治療の場合、限られた材料や方法で治療が行われる必要があるため、各医院での治療の対応範囲に限界があります。
一方、自費診療の場合には、より精密かつ個々人のお口の状態に合った治療を受けることができます。

・診断の仕方

歯の根の形態は複雑な形をしているため、治療前に正確に形状を把握しておくことが治療の成功につながります。
保険適用の治療では、多くの場合、口腔内の状態を平面で確認するレントゲン撮影が行われますが、歯の状態を立体的に把握できるCT撮影を組み合わせることで、より精度の高い治療を受けることが可能となります。
CT撮影では、重症化しないと発見できない病巣も確認できるなど、根管治療の成功率を上げるために多くのメリットを持ちます。
自費診療の場合、希望すればほぼ全ての歯科医院でCT撮影が可能です。保険診療の場合は、場合によってはCT撮影が保険適用されるケースもあるため、歯科医院に確認するのが良いでしょう。

・ラバーダム

ラバーダムは、歯と口の中を隔離するゴム製のシートです。
口の中には、多くの常在菌がひそんでおり、唾液の中にも数多くの細菌がいるため、ラバーダムを用いて治療部位に唾液が入らないようにすることで、細菌感染対策を行うことが可能です。

しかし、ラバーダムの利用には保険点数が設定されておらず、また、ラバーダムの装着には時間を要するため、保険適用の根管治療では用いられないことが多いのが現状です。
ラバーダムを用いた根管治療を受ける場合は、自費診療を選択するのが好ましいでしょう。

・マイクロスコープ

マイクロスコープは、対象物を4〜20倍に拡大することができる顕微鏡です。マイクロスコープを用いて根管治療を行うことで、複雑な根管内を鮮明に拡大し、細菌感染した部分の取り残しを防ぐことに繋がるため、治療後の再感染のリスクを軽減することが期待されます。
近年、マイクロスコープの利用についても保険点数が設定され、保険診療でもマイクロスコープを用いる歯科医院が増えつつありますが、高価かつ、使用に技術力が必要となる機器のため、歯科医院の導入率はまだ低いのが現状です。

保険診療の場合、直接目で見るもしくは拡大鏡を用いて根管治療が行われるケースも多く、マイクロスコープを用いた根管治療と比較すると再感染のリスクが高まる傾向があります。
そのため、マイクロスコープを用いた精密根管治療を希望する場合は、自費診療を選択することがおすすめです。

・使用する薬剤や人工物

根管治療では、根管内をきれいにした後に、内部に薬や人工物が詰められます。
神経を除去した部分は空洞になっており、細菌感染が拡大する可能性があるため、この部分を緊密に詰める処置は、今後の歯のトラブルを防ぐために非常に重要となります。
保険診療では、根管内に充填される薬剤や人工物に制限がありますが、自費診療の場合は、個々人に合わせて様々な充填物の使用が可能です。

・被せ物の種類

根管治療後、保険診療で奥歯の被せ物を行う際は、銀歯が用いられることがあります。銀歯は保険が適用されて自己負担を抑えられる一方、変形しやすく、再び虫歯になるリスクが高い点がデメリットとして挙げられます。

一方、自費診療の場合には、セラミックなどの審美性の高い被せ物を選択することができます。変形が少なく、汚れもつきにくい素材のため、再感染リスクの軽減に繋がるでしょう。

より歯を長持ちさせるための歯髄再生治療

根管治療を行った歯は内部の象牙質が削られ、歯の神経である歯髄(しずい)を失っているため、もろくなっています。
そのため、強い力がかかると欠けたり、割れたりする可能性がありますが、「歯髄再生治療」を行うことでより歯の寿命を長くすることが期待できます。

歯髄再生治療とは、歯の神経が除去された根管治療後の歯に対して、「歯髄幹細胞」を移植することで、失われた歯の神経とその周囲の象牙質を再生させる再生医療です。
歯髄再生治療を行う上で必要となるのは、乳歯や親知らずなどの治療で抜く歯から採取・培養した「歯髄幹細胞」と、精密な根管治療によって根管内が除菌された患歯(治療を行う歯)です。
専門の施設で培養された歯髄幹細胞を、根管治療後の患歯の内部に移植することで、数か月後に歯の神経(歯髄)の機能が回復して水分や栄養を送ることができるようになり、象牙質も再形成されて歯の強度が高まることが期待されます。

楽しくわかる歯髄と歯髄再生治療

未来の治療のためにできること

歯髄再生治療に使用するための歯髄幹細胞は、乳歯や親知らず、矯正で抜く歯など、抜歯される歯の中から採取する必要がありますが、抜歯された直後に歯科医院で専用の容器に入れ、培養施設に送られる必要があります。
しかし、抜歯のタイミングと歯髄再生治療を受けるタイミングが必ずしも重なるとは限りません。
そこで、抜歯のタイミングで採取した歯髄幹細胞を、半永久的に凍結保管しておく「アエラスバイオ歯髄幹細胞バンク」サービスがあります。

歯髄幹細胞をバンク保管しておくことで、治療と抜歯のタイミングが重ならなくても、歯髄再生治療が必要になった時に、保管した歯髄幹細胞を活用することが可能です。

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【まとめ】

根管治療は、保険診療の場合と自費診療の場合では費用面を始め、治療の内容や使用できる素材など様々な違いがあります。
費用面では、保険診療の方が自己負担額を安く抑えられる傾向がありますが、自費診療では、個々人に合わせた様々な治療内容や素材を選択することが可能です。

歯の健康が全身の健康に繋がっていることや、歯の寿命を左右する歯髄(歯の神経)の大切さなどについて学ぶ機会は少ないため、根管治療を深く考えずに行い、後で後悔する方もいます。
全身の健康にも関わってくる大切な歯を維持するためには、自分が納得できる根管治療を選択することが大切です。