歯を失った際の対処法としてブリッジ、入れ歯、インプラントなど、いくつかの治療法が存在します。しかし、治療法にはそれぞれ利点や欠点が存在するため、状況に応じて適切な治療法を選択する必要があります。
そこで今回は、歯を失った時の適切な治療法を選ぶポイントについて詳しくご紹介します。
歯を失った時の治療法
歯を失った時の選択肢となる治療法についてご紹介します。
インプラント
インプラントは、歯を失った部分の顎の骨に人工歯根の「インプラント」を埋め、その上にアバットメントという土台を立てて、人工歯の被せ物をする治療です。
インプラントのメリット
- ほかの歯に負担をかけづらい
- セラミックの歯を選択すると審美性が高く、見た目が自然である
インプラントのデメリット
- 顎の骨にインプラントを埋める外科手術が必要
- ほとんどが保険適用外のため、費用が高くなる
- 顎の骨に定着するまでの期間がかかるため、治療期間が長くなる傾向がある
- 全身疾患の症状によっては治療が適用されない場合がある
- 免疫を司る組織が存在しないため、インプラント周囲炎のリスクがある
- 感覚を伝える役割のある歯根膜や歯髄(しずい)がないため、完全に天然の歯のような嚙み心地は得られない
ブリッジ
ブリッジは、歯を失った部分の両隣の歯を削り、橋渡しのように被せ物をすることで、歯を失った部分を補う方法です。
固定式の治療になりますが、失った歯の本数が1〜2本(前歯の欠損なら連続して4本まで)の場合、保険の適用が可能となります。
ブリッジのメリット
- 入れ歯と異なり固定式の治療のため、安定感がある。
- 外科手術が必要ない
- インプラントと比較すると、比較的治療期間を短くできる
- 保険適用ができるため、費用を抑えることができる
ブリッジのデメリット
- 土台となる歯が3本分の歯を支えるため、土台となる歯に負担がかかりやすい。
- 土台となる歯を大きく削る必要がある
- 被せ物の間などから細菌感染すると、再治療が必要になることがある
部分入れ歯
部分入れ歯は、歯を失った部分に対し、取り外し式の人工歯を装着する治療です。
保険適用の治療が可能ですが、その場合、支えとなる歯に金具のばねがかかるため、見た目が悪くなってしまうことがあります。
部分入れ歯のメリット
- 歯を失った本数に関係なく入れ歯の治療ができる
- 保険適用が可能なため、費用を抑えて治療ができる
- インプラントと比較すると、治療期間が短い
部分入れ歯のデメリット
- 取り外し式の為、違和感が大きく慣れるまでに時間がかかる
- 硬い物は噛みにくい
- 口の変化に合わせて、調整が必要になる
- 部分入れ歯の範囲が大きいと発音に影響が出る場合がある
- ずれたり、外れたりする場合がある
歯牙移植
歯を失った時の治療は、「インプラント」「ブリッジ」「入れ歯」が一般的ですが、歯牙移植も選択肢の1つとしてあります。歯牙移植とは、親知らずや歯列矯正で便宜的に抜いた歯を、歯を失った部分に移植する治療法です。
ただし、歯牙移植を行うには、いくつか適用条件があるため、その条件を満たしていないと治療することができません。
歯牙移植を行えるかどうかを確認するためには検査が必要となります。
歯牙移植の適用条件
歯牙移植の適用条件について、下記で詳しく説明します。
・移植をする歯があること
移植する歯は「ドナー歯」と呼ばれますが、親知らずや噛み合わせに用いない歯が対象です。
歯には1本1本役割があるため、大切な歯を簡単に抜歯することはできません。
このドナー歯に適用する歯があることが、歯牙移植をするため重要な条件です。
・歯の根が複雑ではないこと
歯の根の部分が複雑な形をしていると、抜歯をする時に根が割れてしまったり、歯根膜を傷つけてしまったりする可能性があります。
そのため、歯の根が複雑な形をしている場合には、歯牙移植が難しいケースがあります。
・移植する場所と歯や根の大きさが合っていること
歯の根の数や歯の大きさは前歯と奥歯では異なります。
移植する部位に対して、歯や根の大きさが合っていることが条件になります。
・ドナー歯に歯根膜が十分にあること
歯根膜は、歯ぐきと歯の間にある衝撃をやわらげるクッションのような役割をしている大切な部分です。
歯牙移植をする際には、この歯根膜が重要な働きをします。
顎の骨と歯が結合するためには、歯根膜が十分にあり、歯と顎の骨が適切に結合できる状態が望ましいです。
歯牙移植のメリット
移植するドナー歯には歯根膜があるため、インプラントでは得ることのできない食感を感じたりや噛み合わる歯の負担を軽減できる特徴があります。
また、ほかの歯に負担をかけずに治療をすることができます。
さらに、歯牙移植と後述の歯髄(しずい)再生治療を合わせることもできます。歯牙移植し、その根管内へ歯髄幹細胞を移植することで、移植した歯の歯髄を再生させることも可能です。
歯牙移植の注意点
歯牙移植の適用条件として、移植するためのドナー歯が存在することのほか、移植する部分に十分な骨があることも重要になります。
高齢になると顎の骨が減っている場合が多いため、インプラント治療が適していることもあるでしょう。
また、歯牙移植治療は技術的に難易度が高く、どの歯科医院でも同じような結果が得られるとは限りません。
また、抜歯する場所と移植する場所の2か所の外科手術が必要になることにも注意が必要です。
インプラントの代わりになる治療を選ぶ時のポイント
インプラントの代わりになる治療を選ぶ時のポイントをご紹介します。
咀嚼力別の治療方法
インプラントやそれ以外の治療法について、咀嚼力にスポットを当てて詳しく解説します。
インプラント
ほかの治療と比較すると、高い咀嚼力を回復できるというメリットがあります。
ブリッジ
保険適用の被せ物で固定式の治療ですが、土台となる歯に負担がかかるため、咀嚼力の回復度合いは60〜70%程度といわれています。
入れ歯
入れ歯は取り外し式の治療のため、咀嚼力は30〜40%程度の回復となります。
ほかの治療と比較すると、咀嚼力が弱い点が大きなデメリットになります。
歯牙移植
顎の骨に定着していれば、高い咀嚼力を得ることができます。
費用別の治療方法
インプラントやそれ以外の治療法について、費用にスポットを当てて詳しく解説します。
インプラント
インプラントはほとんどが自由診療のため、費用が高くなる傾向になります。
ブリッジ
ブリッジは保険適用が可能なため、インプラントと比較すると費用を抑えることができます。
入れ歯
入れ歯も保険適用が可能なため、インプラントと比較すると費用を抑えることができます。
歯牙移植
ドナー歯となる親知らずが埋まっている状態であれば、保険適用となり、費用を抑えることができるケースもありす。ただし、歯牙移植は難易度が高い治療のため、自由診療で治療を提供する、歯牙移植に特化した歯科医院で治療を行うことも選択肢の1つとなります。この場合は、治療費が高くなる傾向にあります。
治療期間別の治療方法
インプラントやそれ以外の治療法について、治療にかかる期間にスポットを当てて詳しく解説します。
インプラント
インプラントは、顎の骨に定着するまで3〜6ヶ月程度かかります。
その後、土台を立てたり、被せ物の型取りをする期間があるため、ほかの治療と比較すると治療期間が長くなる傾向があります。
ブリッジ
歯を失った部分の傷口が治癒している状態の場合、治療期間は1〜2ヶ月程度です。
土台となる歯の根の状態によっては、治療期間が長くなる場合もあります。
入れ歯
抜歯した傷口が治癒したら型を取って、2週間〜1ヶ月程度で入れ歯が出来上がります。
その後、調整のために何度か歯医者への通院が必要となる場合があります。
歯牙移植
移植した歯が定着するまでに1ヶ月程度期間がかかり、その上に被せ物をするため、ブリッジや入れ歯と比較すると治療期間が長くなる傾向があります。
治療方法別の周囲の歯への影響
インプラントやそれ以外の治療法について、周囲の歯にどれほどの影響を与えるのかにスポットを当てて解説します。
インプラント
ほかの歯に負担をかけること無く治療が可能です。この特徴は、他の治療法よりも優れている点といえます。
ブリッジ
隣合う歯を大きく削る必要があります。残っている健全な歯を削ることで、健全な歯の寿命を縮めてしまうリスクがあります。
入れ歯
支えにする歯にばねをかけるため、支えの歯に負担がかかることがあります。
歯牙移植
歯牙移植は周囲の歯を削るような治療法ではないため、隣接する歯への健康上の影響は少ないでしょう。ただし、移植する部分は、移植するドナー歯の形に合わせて骨を削る必要があるケースもあります。
歯を失う前にできる治療
歯を失う前にできる最新の治療法を知ることで、健康な歯を長く保つことができます。ここでは、歯を失う前にできる治療をご紹介します。
歯髄再生治療
歯の中には血管や神経が含まれている歯髄(しずい)があり、歯に栄養や血液を供給する、痛みなどの知覚を伝える、周囲の象牙質を修復するなどの働きがあります。
私たちの歯を長期間健康な状態に保つためには、歯髄の働きが非常に重要となります。
しかし、例えばむし歯が神経まで達したり、強い衝撃などで歯髄が壊死してしまうと、歯髄を除去する治療が必要となります。
そんな時に有効な治療が「歯髄再生治療」です。
抜歯した歯から採取した歯髄幹細胞を、歯髄が失われた歯に移植し再生を促す治療です。
歯髄が再生すると、栄養や血液の供給が再開できるうえ、象牙質の再形成も促進されるため、歯の強度が回復します。
歯髄を失った時に起きること
実際に、歯髄を失うとどのようなことが起きるのでしょうか。
痛みや違和感に気づかない
歯髄を失うと感覚が無くなってしまうため、歯のトラブルに気づきにくくなります。
歯髄の無い歯は、被せ物の中で二次的なむし歯が悪化しても分かりづらいため、再治療の際に多くの歯を削らなければいけない場合があるでしょう。
歯が弱くなる
歯髄を失うと、歯に栄養や血液が供給されなくなるうえ、歯髄を除去する根管治療の際に、歯の内部の象牙質も削られてしまいます。
根管治療により歯が薄くなると、欠けたり割れたりする可能性が高くなります。特に根本が割れた歯は、現代の歯科医療では元に戻すことができないため、多くの場合は抜歯することになります。
歯の色が変色する場合がある
歯髄を失うと、歯の血液循環が止まり、歯が黒や茶色に変色してしまうことがあります。
歯髄喪失による歯の変色は、歯の外側からのケアや治療により元に戻すことが困難なため、ウォーキングブリーチなど、歯の内側からの治療が必要となる場合があります。
【まとめ】
歯を失ってしまった場合、インプラント・ブリッジ・入れ歯の3つの治療のほかに、歯牙移植を選択できる場合もあります。
咀嚼力や費用、周囲の歯への影響などは、それぞれの治療により異なるため、よく検討した上で選択しましょう。
また、歯が残っている場合は、歯の健康を保つ上で重要な「歯髄」を健全に保つことが重要です。歯髄を失ってしまった場合は、「歯髄再生治療」を行うことで、歯の神経や血管を再生させ、歯の強度回復を促すことが可能です。
どの治療を選択する場合も、歯科医師と相談の上、納得した上で進めるようにしましょう。